I wait for you patiently. | ナノ
水の中に、いる。
でも息はできてる。なんでだろうか。僕は、魚にでもなってしまったのだろうか。
ちがう。
僕はもう、死んでしまったのかもしれない。この汚れた水の中で、外に出られもせず。ただ静かに沈澱していくように。死んで…。
ちがう。
息をしてるようで、してないんだ。
ごぷり。やっと僕の身体は浮かび上がり、地上に着いた。息を大きく吸って、吐いた。
しかしそこで僕は気付く。
苦しくない。だって、いつも通りの僕がいた。裸で。
そうか。
息をしているようで、していないようで、していたんだ。
起き上がって、目の前のヒトに話し掛けた。知ってるヒト。警戒心はない。
ありがとう、サスケ。やっと出られた。
(サスケと水月)
あたたかい湯の中に、今、僕はいる。
「ぷはっ」
「おい、長風呂もいい加減にしとけ」
「サスケはもう、上がるの」
「もうって…こっちは何時間耐えたと思ってんだ」
「そっか。またね」
ザブン。もう一度潜る。
サスケが浴室から出て行く音が聞こえて、頭をお湯から出した。
話し声も消え、一気にしんとなって少し寂しいような気もするが、僕はこのくらいが好き。このくらい静かじゃなくちゃ、集中など出来ない。
ザブン。もう一度潜る。
目を閉じて音を感じてみた。息をしっかり止めて、耳を澄ます。
どこからか空気の逃げる音。僕の肩が動いて、同時に水も動く。チャプン、と跳ねた。
(溶けてみたい。この中に閉じ込められてしまいたい。そしたらまたあの時みたいに…いや、そんなことしなくても)
じりじりと胸が痛む。もう息を止めていられない。
ゆっくりと顔を上げた。そして二、三度深呼吸をして、髪をゴムで縛る。
結構伸びたな、なんて考えながら、サスケを待っていた。
はやく来てよ。
誰よりもヒトが好きで誰よりも心配性で誰よりも優しい君。来ないはずない。
思えばあの時の僕も、心の片隅では来てくれるって確信していたのかもしれない…。
「おい、水月?」
クスリと微笑んで、はやく抱き着いてやろうと思いながら浴室を後にした。
I wait for you patiently.
02/08