▼ 煌めく世界ときみ
からん、ころん、歩く度に下駄の音がリズミカルに鳴る。綿菓子の甘い匂いや風になびく風鈴の音。お祭り特有の明るさが道を覆う。
けれどあたしの目には、目の前で歩いている紺色の浴衣と水色の髪しか見えない。色白だけれどがっしりした左手は、あたしの右手をしっかり握って離さない。何だか恋人同士って感じがしてドキドキする。しばらくすると、目の前の彼―――チェスターが苛立たしげにこちらを振り向いた。
「おい、早くしろよ。置いてくぞ」
「むっ。遅くて悪かったわねー」
うわ、愛想のない発言。誰の為に下駄を履いてきたと思ってるのよ。ちゃんと追いつく為あたしは小走りについて行く。からころからころ、小走りな足に合わせて下駄の音も早くなっていく。これがあたしの心臓と同じように忙しなく鼓動を繰り返す。
しばらく歩いていると、チェスターが動きを止めてあたしの方に振り返った。あ、今度は微笑んでる。
「ほらアーチェ、見てみろよ」
チェスターが指をさした先に、たくさんの花火が打ち上がっていた。綺麗だろ?って言うチェスターにあたしはうんうんと頷く。色とりどりの花火が真っ暗な夜空を背景にどんどん打ち上がる。周りでは赤い提灯や屋台の明かりが、ひときわ明るく夜を照らす。
それでもあたしは花火も周りの明かりも敵わない、お隣りの大好きな彼のほうが一番輝いて見える。ぼーっと見つめていれば、気づいたのかチェスターがこっちを向いた。
「おい、花火いいのか?」
「いーもん。だってつまんないし、チェスター見てるほうが全然楽しい」
「・・・アーチェ」
チェスターがびっくりしそうな恥ずかしいセリフを言ったつもりなんだけど、返ってきたのはあたしの名前を呼ぶ声で。あれ、驚かなかった?と聞こうとしたけど、その前に彼の両手で顔を固定され、思わず目を閉じた。ゆっくり目を開ければ、目の前には頬をほんのり赤くしたチェスターが真剣な目であたしを見ている。そして、チェスターは躊躇いがちに口を開いた。
「俺も、花火よりアーチェがいい」
びっくりして叫ぶ前に、唇を塞がれた。
お題*確かに恋だった
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