「ちょ、っと待って、」
「…待ては苦手だな」
「まだ、乾いてないから!」
「…塗り直せばいいさ」
「違、だめ、待って!」
「……」


あ、ちょっとむすっとした顔、可愛いな。


ソファの上の攻防戦は、とりあえずわたしに軍配が上がったようだ。
秀一は目を細めて、不承不承と言った感じで浮かせた腰をまたソファに沈めた。



何度目になるのか、私はまた足の爪に視線を遣る。綺麗な、すこしパステルがかった空の色。丁寧に塗られたそれはとても美しい。
たったさっき、秀一が塗ってくれたもの。

私をソファに転がして、足元側に座った秀一の太腿辺りに足を乗せて。壊れ物を扱うかのように、丁寧に、優しく、この上なく愛を込めて、彼はペディキュアを塗ってくれたのだ。

その仕上がりはもちろんとても素敵。
そしてわたしの足をその大きな手で持ち上げて一筆一筆色を載せていく秀一もたまらなく素敵だった。


しかし、塗り終わるや否や秀一はぎしっとソファを鳴らして腰を浮かし、仰向けのままの私に覆いかぶさって来たのだ。
そして冒頭に戻る。



「…待て、か」
「そう、stay」
「早く名前に触れたい」
「私もよ秀一」
「……もうキスしても?」
「まだだってば」


せっかく秀一が綺麗に塗ってくれたのだ。
今騒いだらヨレてしまうのは明白だった。

秀一は少しつまらなそうな顔で、未だに自身の太腿辺りに乗っているわたしの足を撫でた。


「秀一、」
「爪には触れてない」
「…綺麗に乾かしたいの」
「I see」
「ほんとに?」
「邪魔はしないさ」


口元は僅かに笑んでいる。
大きくゴツゴツした、でもすらりと長い指が、足の甲から脛、膝あたりまでを行き来する。マッサージにしては優しすぎ、官能的とも取れる優しいタッチ。


「ちょ、…秀一」
「うん?」
「変な触り方しないでよ」
「変かな」
「うう……」
「で?いつ乾くんだいこれは」
「あと、10分くらいあれば…」
「ふむ、長いな」


秀一の指は、かさついて熱い。


「名前」
「な、に」
「悪い、後で塗り直してやるから」
「え、?」


秀一がぱっと腰を浮かした、と思った時には、もう覆いかぶさられて、熱い唇を受け入れていた。
小言を言う間も、息をする間も与えない激しいキスだった。


「……んっ、しゅ、いち、」
「……っは、綺麗だ、名前」
「もう、待ってって言ったのに、」
「我慢できなくてな、悪い」


口では謝っているのに、視線も表情も全く申し訳なさそうなんかではない。完全に劣情を宿したグリーンの瞳に、わたしは結局溺れることになる。









空色ペディキュア


「あ、」
「ん?」
「意外と、無事だった、爪」
「よかったな?」
「ん?」
「どうした」
「乾いてるって分かってたな秀一」
「……さあ?」
「ちょ、何待って、」
「塗り直さなくていいなら、まだ時間があるな」
「や、ちょっと、待ってって、…っ、」




2190622









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