「おーい、名前?こんなとこで寝てるなよ」
「うー、?景光?」
「おはよう、名前」
「おはよ…あれ?」
「お前よくこんなとこで寝れるよな」
「んー、よく寝た」


目がさめると、なつかしい場所が目に飛び込んできた。ここは、わたしの実家のあった場所の近く。
大きな川に長い土手があって、犬の散歩やジョギングしているひと、遊んでいる子どもたちの声がする。
柔らかな草が青々と茂って、わたしはそこで幼馴染の景光を待ちながら眠ってしまっていたらしい。


「遅れて悪かったな」
「ううん、忙しいのにごめん」


太陽は高く、暑くも寒くもなく。時折吹き抜ける柔らかな風が、久しぶりに会った幼馴染の髪を揺らしていく。2人で草の上に座ると、まるで子供の頃みたいな目線の高さだ。


「…なつかしいね、ここ」
「昔はよく遊んだな」
「零が川に落ちたことなかった?」
「ああ、あったあった。お前ギャン泣きしてな」
「零が死んじゃうかと思ったんだよ…」
「はは、お前をなだめる方が大変だったな」


わたし達3人は幼馴染で、よく一緒に遊んでいた。性格も違うし、環境も違ったけれど、歳が同じでなぜかウマがあって。
わたしの実家は、今はない。まあ色々あって、わたしは天涯孤独の身になって。でも警察になってからの生活は、忙しいながらもとても充実していて。あっという間に、こんなに大人になってしまったけれど。

今日ここに来たのは、大切な話があったからだ。



「あのね、景光」
「うん?」
「私たち、結婚するの」
「…そうか。ついにだな。おめでとう」
「うん、ありがとう」
「まさか本当に結婚まで行くとはなー」
「ふふ、わたしもまさかだよ」
「で、今日ゼロは?」
「もちのろんでお仕事だよー」
「相変わらずだな」


柔らかく目を細める景光。
昔から変わらない、切れ長の優しい瞳だ。

わたしは、長年の想いが実って降谷零と結婚する。
幼馴染と結婚なんて、学生の頃の自分では想像もつかなったストーリーだ。
零が公安のゼロに所属してから何年も、会えなかった。やっと組織が壊滅して、長かったわたし達の冬が終わって。そしてついに、その日を迎えたのだ。


「で?ゼロはなんてプロポーズしたの?」
「え、それ聞く?」
「あいつがいたら教えてくれないだろうから」
「ふふ、スタンダードなプロポーズでしたよ」
「そっか、俺も見たかったな」
「…それ零が聞いたら怒りそう」
「ぶは、確かにな」
「景光に、一番に報告したかったんだ」
「…ああ、ありがとな」


ああ、この笑顔。やっぱり零も来れば良かったのに。
昔からずっと3人で、笑ったり泣いたり冒険したり、とにかくいつも一緒にいた。だから零も景光も家族みたいで、わたしの兄であり弟みたいな存在だった。そんな景光だから、私たちのことを一番喜んでくれるとわかっていた。だから一番に話したかったし、きっと零も同じ。


「…な、名前」
「うん?」


風がぶわりと強く、一陣通り抜ける。


「ゼロはさ、あんな奴だから」
「ん、」
「自信家で強がりで、負けず嫌いで突っ走ることも多いし」
「うん」
「だからお前のことも、これから先困らせることも多いと思うんだ」
「…うん」
「でも、お前もわかってる通り、」
「…」
「あいつは信念を持って、大切なものを守りきれる男だからさ」
「…ん」
「沢山幸せにしてもらえよ」
「…任せといて」


景光の大きな手が、わたしの頭にぽんと乗った。
暖かい硬い手が、優しく髪を撫でて、離れて行く。


「景光」
「うん?」
「わたし、零のこと幸せにするよ」
「ああ、頼んだぞ」
「うん」
「俺も一安心だなあ〜手のかかる兄妹たちが結婚なんて」
「ふふ、色々ご心配をお掛けしました」
「ああ、…まあでも、ほんと良かったよ」
「ん?」

お前たちと出会えて、よかった。

目を細める景光。
そこで、わたしの意識は急に暗転した。







(だけどきっとあれは、ほんとうに、)





「……おい、名前?大丈夫か?」
「う…れい、」
「なんで泣いて…夢でも見たか?」
「…わたし、景光に、会ってきたの」
「…そう、か」
「幸せにしてもらえよ、って」
「…」
「ゼロを頼むって、」
「…ああ」
「ひ、ろ、」
「名前…大丈夫だから」
「う、会いたいなあ…っ」
「うん、そうだな…会いたい、な…」
「…っ」





20190628

どうか降谷さんが幸せになりますように









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