50音短編企画/夏男


※現代パロ









ジリジリ、音がしそうな日射しに灼かれそうな錯覚。
すぐそこの店でさっき購入したコーラが、透明でばかでかいプラスチックのカップの中で細かい氷にきらきら光って見えた。カップの周りにびっしり付いた水滴を払うように揺すれば、しゃかしゃか、氷が音をたてる。

「……暑い」
「だな」


心底嫌そうに言ったわたしの独り言に、同意しながらもちっとも嫌そうでない返事をした隣のそばかす男を睨み付けた。

「そんな顔すんなよ、台無しだぜ?」
「…」


にかっと笑う彼の白い歯までも憎たらしい。太陽みたいな笑顔とはまさにこのことといった眩しい彼。そんな彼の背景はビーチ。似合いすぎる。なんかむかつく。

「デートしようぜ!」なんて唐突に電話が来たと思ったら恋人はすでに愛車のビッグスクーターでわたしのアパートの下に居て。
慌てて支度して後ろに乗って、着いたところはショッピングモールだった。いきなり買い物したくなってわたしを誘ったのかと思っていたら、彼は迷わずあるテナントへ。そして有無を言わせぬ勢いで、一式お買い上げしてもらったのだ。通路に面したディスプレイスペースで、ないすばでぃな女の子のマネキンが色とりどりな水着でポーズをきめているその店で。

そしてそのまま今に至る。


「やっぱりお前は白が似合うよなー」
「…」


海が嫌いなんてことはない。エースが見繕ってくれた白いビキニも可愛くて、気に入っている。けど海に来るなら、メイクも髪も海仕様にして、日焼け止めも万全にして、ついでに言うならダイエットもしておきたかった。それで一番可愛くして、エースに見てもらいたかったのに。

おまけに女の子グループも多いこのビーチ。さっきから女子の視線が痛いのだ。


「なあ、★?怒ってんのか?」
「…怒ってるわけじゃ、ない、と思う」
「じゃあなんでそんなに泣きそうなんだよ?」
「…」

レンタルしたパラソルの限られた日陰の下、非常に可愛くないであろうわたしの顔を覗き込むエースの顔こそ泣きそうで、さながら叱られてしゅんとした大型犬だ。


「だって、海行くならわたしちゃんと支度したかったのに…」
「そっか…悪ィ、俺思い立ったら今日!ってなっちまって、」
「今度は、ちゃんと前もって誘ってね?」
「あ、ああ、もちろん!」
「あと、」
「あと?」
「水着買ってくれてありがとう」
「!…おう、すげえ可愛いよ、★」

へこむ大型犬がなんだかかわいそうになって許してあげたら、今度は尻尾を振り出しそうな笑顔になって。

やっぱりお日様みたいな彼だと、改めて思うのだった。



「な、★」
「ん?…っ」

横を見た瞬間、ほんの一瞬。
エースの唇が、わたしの唇を掠めていった。


「よっしゃ、行こうぜ?」
「う、うん」

にやりと妖艶に笑った彼は、背景のお日様よりも眩しかった。





夏男
(お日様よりも、熱くして)




「な、あの白ビキニの子、」
「おお、めっちゃいい!」
「かわいーけど男連れかあ…」
「関係ねぇって、俺ツボだわ〜」
「ちょ、お前見すぎだって!」

「…エース?なににらんでんの?」
「なんでもねェ、★」
「ちょ、そんなにくっつかないでよなに?」
「…」




20120629




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