50音短編企画/ノイズ




泣くな、泣くな。
わかってたじゃないか。


「あー、★?」
「…なんデスカ、シャチくん」
「…気にすんなよ」
「してないよばか」
「ば、……ならいいけど」
「…」


クラスメイトのシャチと、教室の窓際に立っている。夕焼けが鮮やかすぎて苦しい。


「…かわいい子だね」
「顔なんか見えねえよ」
「そう」
「…だから気にすんなってば」


三階の教室から見渡せる校門を抜けていく、ふたつの影が延びている。長い方の影はローだ。わたしの恋人だ。たぶん。


「なあ、★」
「うん?」


シャチはわたしの友達だけど、ローの幼馴染みだ。
すこしずつ学校から離れていくふたつの影から目が離せない。


「お前、それでいいのか?」
「…うん」
「私だけ見てって、言ってみれば?」
「やだよ、うざいじゃん」
「好きな奴から言われたら、嬉しいんじゃね?」
「好きな奴から、ならね」


シャチが大袈裟な溜め息をつく。


「あの人は、お前に惚れてんだよ」
「慰めありがとう」
「馬鹿、違ぇって」
「なにがよ」
「お前のこと本気なのに、本気になってる自分を認めるのが怖ェんだよ」
「…そんなの」


知らないよ。


なんて思ってたって、わたしは鈍い方だし、はっきり示してくれなきゃわからない。他の女の子と遊ぶことが、わたしを本気で想っているからだなんてわからない。


「も、やめようかな…」
「え?だから、あの人は本気で」


ふたつの影が見えなくなった。


「だって、もう、辛いだけだもん」
「待てって★、ほんとにあの人はお前のこと」


夕焼けが、宵闇に食まれていく。


「もう、たくさんだよ。」


シャチは黙って、眉間にシワを寄せていた。






ノイズ
(もう、うるさいよ)





20120627




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