50音短編企画/理性


※現代パロ(大学生)





バイトが終わったのが深夜2時。今日は金曜だからいつもより忙しかった。程よい疲労感を引きずりながら、ふたりで暮らすアパートへ帰った。
★も今日はバイトだったけど、あいつは俺の居酒屋バイトと違って深夜に及ぶことはない。もう寝ているであろう彼女を思い浮かべながら、静かに鍵を開けた。
入ってすぐの短い廊下はやはり静かだ。帰宅する俺のためにちいさなライトが点いていて、奥のリビングルーム兼寝室のドアの硝子もぼんやり明るいだけで、彼女がベッドに潜り込んでいるのは決定的だった。
★を起こさないように、極力静かに脱衣所の引き戸を開けて着ているティーシャツを脱いで洗濯機に放り込む。そのままシャワーを浴びてバイトでかいた汗を流して、やっと寝室に入った。


「……ん」

想像通り、ベッドで丸くなっている彼女がちいさく声をあげる。起こしちまったか?とそっと覗き込んだけど、その顔はすやすや気持ち良さそうに眠っていて。


「クク、かわいーやつ」

思わずひとりごちて、そっと瞼に唇を落とした。


「う、え、す……」
「!」

微かに聞こえたのは、確かに俺の名で。可愛すぎる寝言に、シャワーを浴びたばかりの身体が余計に熱くなる。

白い頬に口づけて、そのまま唇にもそっと触れた。


「…んん、」

ちいさく漏れた声は、なんだか最中を思わせる。
……くそ、可愛すぎる。ゆっくり寝かせてやるはずが、なんだか我慢ができなそうだ。


「★…?」
「…」

控えめに呟いた名前は、彼女を覚醒させるまでには至らなかった。そこに芽生えた悪戯心。

髪を撫でて、輪郭をふわりとなぞる。
それからもう一度、今度は食むように口付けた。柔らかい感触に夢中になりなって続ければ。


「んん、んっ…え、エース…」
「悪ィ、起こしたな」

微塵も思ってないけどな。

さすがに起きてしまった彼女のとろんとした瞳に映る俺は、にやりと笑っていて。


「おかえり…」
「ん、ただいま」

まだ半分夢の中なくせに、ふにゃりと笑った★に答えながら頬に口付ける。


「え、す…」
「ん?」
「だーいすき…」
「!」

不意に首を抱き締められて、好きだなんて呟かれて。あしたは二人で昼まで寝てやろうと心に決めながら、俺はそいつを手放すことにした。




理性
(グッバイ!)




20120624




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