50音短編企画/解熱剤




「…………うあ」


電子音に体温計を引き抜いて見れば、小さなデジタル画面は39度ちょうどを示していて。見なけりゃ良かった。余計にしんどくなった気がする。


「あー……痛」


高熱でフラフラする頭で考える。昨日の任務の帰りに夕立に降られたこと。出張所はすぐそこだからと走って帰ったら、夜中寝苦しさにめが覚めて。いがいがする嫌な感じの痛みを主張する喉と咳。朝起きたらやけに体が熱くて、まさかと体温計を出したのだ。
風邪なんてひさしぶりだな、ああ、フラフラする。


あちこちぶつけながら、なんとか冷蔵庫にたどり着く。ミネラルウォーターのボトルを開けて、一気に流し込む。痛む喉は辛いが渇きを癒されて深いため息が落ちた。



「ああ……しんど」



そうしてまたベッドに潜り込んだとき、聞き慣れたメロディーが意識を引き戻した。

携帯の画面に示されているのは、恋人の名。




「………あい」
「★?寝とったか」
「起きてた…」
「なんや、具合悪いんか」
「んん、熱出て…」
「ほんまか?大丈夫なん?」
「今日は仕事休みやったし、大丈夫、」
「そんなことやないわ、医者連れてったるから…」
「ええよ、柔造今日ふつうに任務あるやろ」
「せやけど…」
「とりあえずわたしまだ眠たいし、柔造仕事終わったらお薬買ってきて」
「終わったらなんて遅すぎるやろ、そんなら昼飯の時に買ってくわ」
「ほんま?じゃ頼むわ」
「あと欲しいもんあるか?」
「解熱剤と、ポカリ」
「よっしゃ、任しとき」


こういうとき、世話上手な恋人はほんとに助かる。わたしは柔造に心から感謝しつつ、襲いくる睡魔に負けていった。

















「……ん」
「おう、起きたか」

目が覚めると、キッチンに柔造が立っていた。


「柔造」
「どないや?」
「うん…熱い」
「ほら、熱測り」
「ん」

体温計のスイッチを入れて、脇に挟んだところで柔造の大きな手がおでこを覆う。ひやりとした感触にぞく、とする。


「ほんま、熱いなあ…食欲あるか?」
「あんまり…」
「お粥作ったし、すこしだけでも食べ」
「うん、ありがとう」

体温計に示されたのは38度7分。すこし顔をしかめた柔造が、キッチンからほかほか湯気のたつお粥を持ってきて食べさせてくれる。全部は食べられなかったけど、美味しかった。


「薬、これでええか?」
「うん、ほんまありがとう」

解熱鎮痛剤を1錠、ポカリで流し込んで。



「なんやお前が風邪なんて珍しいな?」
「そやね。わたしもひさしぶりやと思ったもん」
「治らんかったら医者行かなあかんで」
「わかってますー」
「でもなんや、あれやな」
「うん?」
「顔赤いし、目ぇ潤んどるし、ちょっとそそられるわ」
「は?」
「★は病気でもかいらしいんやな」
「何言って、」
「今日は我慢したる、早よ治し」
「我慢って…」

刹那、柔造の顔が目の前にあって。ほんの一瞬だけ、キスを落とされる。
いつもの爽やかキャラの柔造と違うぎらりと
した目に、身体の奥がずきんと疼いた。



あかん、熱あがってまうわ。






解熱剤
(ぼくらの熱は下がらない)





20120623




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