50音短編企画/エンドロール


*現パロ




「キッド!DVD借りて来た!」
「はあ?自分ん家で見りゃいいだろ」

おお恐い。ない眉の間に寄った皺と鋭い眼光。ちょっと小心者な人ならこれだけで持ってかれちゃうだろうな。だけどわたしはキッドとは高校1年の時からやたら気が合ってずっと仲良しだ。もうこんな程度の睨みに狼狽えるほどヤワじゃないってもんよ。


「もーやだな。ひとりで見れないからキッドん家まで来たんじゃん」
「勝手に入るな…」

今や大学生の私たちは、学校は違えど今も仲良しだ。勝手知ったるキッドの家、とはよく言ったもので(あれ?なんか違う?)、わたしは狭い玄関で腕を組んで威圧的に佇むキッドの横をするりとすり抜けて入って行った。手にしているのはDVDのはいった袋と、コンビニのレジ袋。


「…酒か」
「ふっふっふ。チータラもあるよ」
「…なんのDVD借りたんだよ?」

大きなテレビの前のローテーブルに缶ビールとおつまみを並べだすと、突然機嫌の良くなるキッド。分かりやすい奴め。


「じゃーん!」
「……これ、ホラーか?」
「うん!」
「お前…ホラーなんか見れねェだろ」

あ、コラ溜め息反対!傷つく!
とか言ってる場合でなくて。わたしは確かにホラーは苦手だ。なんのためにお金払って恐い思いイコール不快な思いをせにゃならないんだ。夜中トイレ行くのもお風呂入るのも怖くなるし、いいことない。けど、これは別なのだ。


「ジョアンが出てるの…!」
「……んなこったろうと思った」

あ、また溜め息。でもなんだかちょっと嬉しい。キッドはほんとに、わたしのことをよく分かってくれてる。

ジョアンはわたしが大好きな俳優さんで、めちゃくちゃ有名なわけではないけどそこそこいい役をやってる爽やかイケメンだ。そんなジョアンが初めてホラー映画の準主役に抜擢され、そのDVDがようやくレンタルリリースされたのだ。


「ほんとに見れんのか?お前」
「大丈夫だって!キッドもいるし!」
「理由になってねぇ、だろ」
「あ、ちょっとまだ飲まないでよ、わたしにもちょうだい!」

わたしがDVDをセットしている間に、キッドはソファに腰掛けぷしゅっと缶ビールのプルタブを開けていた。
オープニングが流れ出すのを見てわたしもキッドの隣に座った。


「ドキドキするな…」
「あ、★オイ柿の種がねェぞ」
「えーだって飽きたんだもん。おっさんくさいし」
「おま…!柿の種が無ェとかビールの旨さが半減だろうが…!」
「うっそおっさんくさっ」
「てめェ!」
「ちょっと静かにしてよ聞こえない!」


とか、言ってられたのは最初の30分だけだった。


「…っぎゃあ!」
「…悲鳴に色気が無ぇ」
「………ひっあ、あ、あ…」
「…顔が気持ち悪ィ」
「きゃー!!」
「コラ離れろバカ★!」
「や、だって、あ、あれ、」
「…だから言っただろうがよ。止めるぞ」
「や、やだ、まだジョアンが…」
「…」
「いやあああああ!」


開始1時間。堪らずキッドの腕に飛びついていた。

「重い。腕がちぎれる」
「うるっさいな…」
「…ったく」
「ぎゃあ!」
「耳元で叫ぶな!」


がっつりホラーな映画を見るのは、正直初めてだった。なんとかなるなる作り物だもん!なんて思ったわたしバカ!恐い!なにこれ怖すぎる…!
しがみついたキッドの太い腕をこれでもかと抱き締めて、堪らず何度も顔を埋めた。


「ジョアン…!」
「…」

そうして2時間とすこし、わたしはキッドにしがみついてなんとかラストを見届けたのだった。


「終わったあ…」
「…ああ」
「お、面白かったね!」
「んー…」
「あれ、キッド怖かったの?」
「…」
「うん?」
「…お前さあ」
「なに、」
「誘ってるとしか思えねぇよなあ」
「うん?」
「大してねェ胸押し付けやがって…」
「あ、え、キッド…?」


わたしの視界は、天井と、キッドに占められる。


「ちょ、ちょっと待って、」
「不用心だな、俺だって男なんだからよ」
「待っ!」
「…」

語尾は、熱くて柔らかいキッドの唇に消えた。


「……っは、あ、キッド…!」
「人が散々我慢しててやったのに…お前ってやつは…」
「え、我慢って」
「もう容赦してやらねェからな。★」


びっくりするほどまっすぐで熱い視線に、おなかの奥がきゅんと疼いた。やらしいキスに溺れながら、キッドの赤い髪越しにエンドロールが滲んで見えた。





エンドロール
(ともだちじゃいられない)



20130419




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