50音短編企画/挑戦



「だああっ、負けた!」
「ふっふっふ、★君、この俺に勝とうなんざ10年早いのだよ」
「シャチ、またイカサマしたんじゃないの?!」
「ばっ、馬鹿言うな!」
「ちぇー…」
「さーて、罰ゲームを決めようではないか!」
「……」

春島の穏やかな気候の中、日向ぼっこついでに甲板で始めたいつものカードに敗けて、私は顔の筋肉をひきつらせる。目の前のわたしと同じ古株のクルーはにんまり口角を引き上げて、これ以上ないくらいにご機嫌だ。

「よーし、いいか?よく聞けよ……………」
「……………は?何言ってんの無理無理無理!」
「あれ?★君、負けたのは誰だったかね?」
「……」

















「あー………ロー?」

翌朝。この船で一番立派であろう船長室のドアの前でしばらく悩んだあと、意を決してその名を呼んだ。返事はない。


「ロー?開けるよ?」

3秒だけ待ってノブに手をかけた。


「ロー…?」

広い船長室の一角を占拠する大きなベッド。真っ白いシーツにくるまって割と端にいる彼が目にはいる。昔はおんなじくらいの身長で、おんなじベッドでも寝たもんだ。けど今はすっかり長身で、わたしのシングルベッドとは桁違いに上質なそれでひとり悠々と眠る彼。幼馴染みだけど、今は億越えルーキーとしがないいちクルー。雲泥の差とも言うべきか、はあ。


と、そんなこと考えてる場合じゃないと彼の枕元へ近付く。


「ろ、ロー…?」
「……」

端正な顔は眠っていると隈も薄らいで見えて、どこかあどけない。


「ロー、朝だよ」

起きないことは分かっていて、普通の声量で話しかける。規則正しい呼吸に誘われるように、その枕元へ膝をつく。ベッドに肘をつけば、ローの顔はもう目の前だ。


「起きてくださあーい」

そうっと髪に触れる。見た目より柔らかい短髪をゆるく撫でて、白い頬をなぞる。


彼の顔に触れたのはいつぶりだろう。
共に海へ出てここまで上り詰めて、それまでの間に一度もなかったかもしれない。


「……っ、」

ローがほんの少し呼吸を乱して身じろぎする。
いつもより伸びた口ひげまで指を滑らせる。


「………★、何してる」
「あ、起きたあ」

ぎろり。目を開けた瞬間から殺気を放つたあ、ほんの今までの彼とは大違い。


「ローを起こしに、って、きゃあっ、!」

事も無げに紡ごうとした句は、情けない悲鳴に飲み込まれる。手首をぐいっと引かれて、痛いと思う間もなくベッドに組み敷かれていた。


「起こしに来た奴があんな触り方するかよ」
「ええ、起きてたの?」
「誘ってるとしか思えなかったな」
「さ、さ?!」
「違うのか?」

口角を引き上げて、ぐっと近付くその顔を思わず凝視する。伸びた髭、吐息に思わず息をのむ。なんつー色気だこの男…


「ろ、ロー、あたし、ローを起こしに、今日、あの、針路について、話が、て、」
「…舌噛むぞ」
「と、とにかく、退いて…!」
「…嫌だと言ったら?」
「え、」
「お前、なかなかいい顔するんだな」
「はあ?」

羞恥に真っ赤に染まるわたしを至近距離で見下ろして、ローは余裕綽々で笑う。機嫌いいな、珍しい。寝起きなのに。


「誰に言われて来た?」
「っ…シャチ、」
「…敗けたのか」
「…うん」

今日ばかりはあいつを褒めてやるかなんて呟くローの顔が、わたしの首筋に埋まる。ちくちく刺すひげと、鼻が当たってくすぐったい。


「やだ、ロー…っ」
「聞こえねェよ」

ちくり、僅かにはしる甘い痛み。

「ちょ、ロー!」
「うるせェ口だな」

塞がれてェのか。
びくりと跳ねた肩と、これ以上ないくらい真っ赤になった頬。見留める彼は楽しそうだ。
幼馴染みのくせに、同い年のくせに、なんなんだ、こんな色気振り撒きやがって。
……なんだか逃げられないじゃない。


「なあ、★」
「……なに、」
「キスしろよ」
「……ばか」

おかしいな、もう彼から目が離せない。







challenge!
(キャプテンを起こしてくること!)






「遅ェな〜★のやつ」
「シャチ、何してる。キャプテンを起こしに行かねェのか?」
「あ、ペンギン!昨日カードで★に勝ってさー今日は★に代わってもらったんだよ!」
「ああ?!★に?!」
「え、な、なんかやばかった、?」
「何のためにお前の仕事だったと思ってんだよ…ハァ、暫く出てこないと思うぞ…」
「え?!なんで?!」



20120809





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