50音短編企画/腕枕




「………疲れたあああ」
「お疲れさん、ほら」
「ありがと」
「おう」


今日の任務はきつかった。悪魔を祓うより、部下の尻拭いをするほうが大変だったからだ。
私が煙草をくわえると、獅郎が火を点けてくれた。

ぎし、とベッドのスプリングが鳴く。

ふう、と紫煙を吐き出せば、ニコチンがすうっと体内を巡っていくような錯覚。シャワーで流せなかった胸のもやもやも、喫煙中は薄れているような気がする。こんなことが続くと、最近やっと減らした本数がまた増えそうだ。


「指導係もタイヘンだなァ?」
「タイヘンなんてもんじゃないわよ…」
「メフィストの気まぐれだろ、少しの辛抱だ」
「他人事なんだから…」


元々わたしは先月まで、獅郎と一緒に最前線で戦う竜騎士であり、手騎士だった。が、ちょっとした手違いでかすり傷を負ってしまった。
正直こんな傷は日常茶飯事な程度だったが、やたらわたしを気に入っているメフィストに見咎められてしまう。「あなたの陶磁器のような素肌が傷付くなんて考えただけで夜も眠れません」とかなんとか喚かれて、新人祓魔師の監督兼指導係にされてしまったのだ。

新人祓魔師の監督?指導?私はそんなことより、前線で悪魔と闘いたい。おかげで私のストレスは鰻登りなのである。


「はあ…」
「おうおう、腐ってんなァ」
「明日も明後日も、低級悪魔と新人祓魔師のお守りとか…気が重いとかのレベルじゃないよもう…」
「ま、そう言わずにしっかり職務に励めよ」
「わかってるわよ…」


煙草を押し消して、照明を落とす。


「★」
「ん?」


低い声でわたしを呼ぶ獅郎が、ベッドで片腕を伸ばしてにやりと笑う。


「……今日はしないからね」
「………ッチ、わーってるよ」


なにその沈黙と舌打ち。
とは一応突っ込まないであげて、彼の腕に頭を乗せて横になった。


硬い腕はあたたかくて、力強い。
獅郎の胸に擦り寄れば、どくんどくんと鼓動が聞こえてくる。


ああ、落ち着く…


「★」
「ん…」


甘く低い声が耳を撫でていく。
心地よくて、眠気が襲ってくる。


「………しないってば」
「わかってまーすー」
「もう…」
「柔らけぇ…」


彼の片腕が、お尻から腰を撫で上げる。



「もーだめ、寝る…」
「え、もう?ちょ、待て」


目を閉じかけたら、獅郎の焦った声がして、また目を開ける。


「おやすみの、」
「………はいはい」


にやりと笑う彼の唇にそうっと口付ければ。


「おやすみ、★」



薄れ行く意識の彼方で、獅郎が髪を撫でるのを感じていた。





腕枕
(あしたもがんばろう)




20120710




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