50音短編企画/あさがお




「ん?これって」
「あ、★姉!来とったん?」
「廉造、よしよし〜」
「やめろて〜俺ももう小5やねんから!」
「はいはい、ね、これってさ、」
「?観察日記やで?あさがおの!」
「やっぱり〜懐かしわあ」
「えー?なにが?」

空には背の高い入道雲。いつものように訪れた志摩家の軒先に、いつか見たプラスチックの植木鉢。そこに生えている緑のつるに、いつかの彼を重ねてしまう。











「★!」
「〜〜っ、じゅ、柔造?」
「こんなとこで何しとんのや!」
「だ、だって、だって……っ」
「なんや、それ?」


わたしたちが廉造くらいのとき、どうも植物を育てることにセンスのない私は、あっさり宿題のあさがおを枯らしてしまって。どうしようかとパニックになったわたしは、土で重たいあさがおの鉢を持ってお寺の裏の林に逃げ込んだ。黄色くなった細いつるを目の前に、わたしは誰に責められるでもなく泣いていて。夕暮れ迫る時間になっても、まだ動けなかった。

おなかすいた、暗くなってきた、こわい、どうしよう、どうしよう……

涙がまた迸った。そのとき、わたしの前に現れたのが柔造だった。


「!こ、これは…」
「ええから、見せ」

わたしのあさがおに気付かれた。
急いで隠そうとするわたしを諭すように見る彼の目は、同い年なのにとてもおとなで、優しくて。


「なんや、あさがおやないか」
「……枯らしてもうてん」
「★はほんま花咲かすん下手やもんな」
「……」

押し黙ったわたしを見て、柔造はすこし笑った。


「大丈夫や。まだ夏休み日ィあるし、おとんに種もろて一緒に育てたるから」
「え…?」
「ほら、涙拭き」
「うん…っ」


力持ちの柔造が、わたしの鉢を持ってくれた。柔造の家についたらもう外は暗くなっていて、八百造さんにふたりで叱られた。柔造はげんこつ付き。痛そやな、って、心が痛かった。

それから訳を話すと八百造さんはあさがおの種を出してきてくれて、わたしはそれを植えて八百造さんと柔造に送られて家に帰ったのだ。
横を歩く柔造がやけに大きく感じて、その横顔を盗み見てはどきどきした。











「……★姉?」
「……え?」
「なにボケッとしとん?」
「思い出してたんよ、ちょっと昔のこと」
「昔て、俺とそないに歳変わらへんやん!」
「はーいはい」
「あ!廉造くんを甘く見とるとあかんのやで?!」
「こら廉造、宿題やったんか?」
「柔兄!」
「柔造!」
「なにじゃれついとんのや、小5相手に」
「ええやん!ねえ、廉造?」
「おう!」
「…まあええか、廉造、あさがおの観察日記、頑張り」
「あったりまえや!」
「誰かさんみたいに枯らすんやないで」
「ちょ、柔造!」
「はは、ほら、中でアイスでも食べ」
「わーいアイスー!」
「廉造は宿題が先ー」






あさがお
(夏の日のおもいで)



20120622




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