50音短編企画/ぬるま湯


※微裏注意











情事後特有のけだるさと、襲い来る眠気が意識を霞めていく。シーツを胸の上まで手繰り寄せて、煙草に火を点す彼の背中を見ながら、ふわふわする意識に身を委ねていた。


「★?」
「ん、…獅郎さん?」


ベッドの縁に腰掛けて、煙草をくわえたままの彼が振り返る。その低い声は、まるで麻薬か何かみたいに、私を甘く痺れさせてしまう。


「身体、大丈夫か?」
「うん…なんとか」


鈍く痛む腰は、明日にはもっと確かな痛みを主張するんだろう。それを思うと、すこし憂鬱だ。


「無理させたな…悪ィ」
「大丈夫だってば」


おおきな手のひらが、わたしの頭を撫でていく。
こんなに優しくしてくれるのに、彼とはただの同僚だ。

始まりなんておぼえてない。終わりなら、いつ来ても可笑しくない。私たちは恋人同士でも何でもないし、想いを伝えるつもりもないのだから。


「★」

甘く低く、彼の声が耳を這う。

煙草を押し消した彼が、再びわたしにのし掛かる。

眠いとか、疲れたとか、そんな意識は彼の声だけで簡単にたち消える。


「お前は可愛い奴だな、ほんと」
「獅郎さん…や、」
「ああ、優しくする」
「待っ…あ、」


優しく見つめるその瞳も、身体を撫でるかさついた手のひらも、私だけのものになってなんて言えないまま。






ぬるま湯
(いつまでもこのままぬかるんで)




「なあ、★…俺さ、」
「う、あ……っ?」
「……や、なんでもねェ」
「あ、だめ、待っ、……っ」
「(想いも伝えられないなんて、ガキかよ、俺は。)」




20120704




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