50音短編企画/体育倉庫



狭い狭い、暑い空間。それでいて薄暗く、埃っぽい。さらに背中にのし掛かる、ずしりと多分なマットの重み。

「…っ」
「ね、大丈夫…?」

さらに悪いことに、そんな俺の下には大きな目を潤ませて、上気した頬に唇を赤くした同級生がいる。


もとはといえば、そう、俺のせいだ。

スモーカーの授業中、俺はそれはそれはもうぐっすり眠っていた。それを起こそうと後ろから頑張ってくれたのが、★だ。でもスモーカーは何を勘違いしたのか、ふたりで遊んでいると判断した。それで旧校舎の体育倉庫の掃除なんていう、必要性も感じないただのイジメにしか思えない罰を課したのだ。

錆び付いた重い引き戸を開けて、むわっとした蒸し暑い空気に圧倒された。しかしこのまま帰る訳にもいかず、俺たちは溜め息混じりに掃除を始めたのだ。

が、


「うおっ?!」
「きゃあっ」
「危ね、」

一瞬だった。

ドドドドっ!!という凄まじい音がして、乱雑に積まれた古いマットの山が倒れてきた。彼女を庇おうと飛び出して、マットの重みは全て俺の背中にかかった。


そうして冒頭に戻る訳だが。



「え、エース?」
「俺は、大丈夫だ。お前は?」
「うん、大丈夫、ありがと…」
「お、おう」

近い。非常に近い。

マットが無かったら、俺が彼女を押し倒して、今にもキスするような姿勢だ。

彼女の額の汗が、まあるく光っているのが目に映る。感じる吐息が、甘いように思える。
視線がさ迷えば、彼女の制服のシャツから覗く真っ白なデコルテに生唾をのむことになる。


「…」
「…」


やばい。やばい。

俺は健全な男子高校生だ。目の前に、気になっている女の子がいてなにも感じない訳はない。


「なあ…★?」
「なに?」


くるり、動いた瞳に俺が映る。
狭い空間、熱くなる身体。沸き立つような彼女の甘い香。


「先に謝っとく。ごめんな」
「え?……っわ、」

身体にぐっと力を入れて、背中のマットごと起き上がる。


「すごい、エース、ありが…」


彼女の言葉が不自然に途切れたのは、俺が抱き締めて、唇を奪ったから。


「…っ、」
「…はあっ、」


抵抗できないんじゃなくて、しないように思えた。





体育倉庫
(埃っぽい、秘密のばしょ)




20120703




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