50音短編企画/芽吹く



「……きれぇな音やなあ」
「せやろ?」

幼い頃から我が家のように見知った志摩家の一室、ベッドに背を預けて三味線を弾くのは金髪の幼馴染み。
思わず感想を呟けば、自慢気に笑う金造。それドヤ顔ってやつやな。


「あんたはこういう才能だけはあるんやね」
「だけはって何やねん」

金造は昔っから、歌うのが好きやった。それが高じて今はバンドのボーカルで、そこそこ人気者や。柔兄や八百造さんによく似た垂れ目と整った顔立ち。金髪もなんや悔しいくらい似合う。

そんな彼が弾く三味線は、間近で聞くとけっこう迫力もあって綺麗な音につい聞き入ってしまう。


「せや、★も弾いてみいひん?」
「え?」
「楽しいで、ほら」
「ちょ、待っ、わあ重っ、」

目をきらきらさせた金造が、ひょいっとわたしに三味線を渡す。意外な重さに落とすまいとわたわたしてると、いつのまにか金造は私の後ろに居った。


「ええか?撥はこう持ってやな」
「こ、こう?」
「ほんで、こっちの手は。こうな」
「うん…」

金造の右手は私の右手に。左手は、左手に。重なる幼馴染みの手は、わたしのそれよりずうっと大きくて節だっていて。男のひとやな、って思ったら、急に背中が熱くなる。

金造の顔はわたしの肩のすぐ上で、横を向いたら唇触れてしまいそう……って、私は何を考えてんねやろ。


「なかなかええやないか、★」
「っ!…ほ、ほんま?」

すこしおおきな声を出した金造の息が、不意にわたしの耳にかかる。

思わず息を飲めば、なんだか余計に意識してしまう。


「…なんやお前、耳弱いんか?」
「へ?…っ」

突然低くなった声のすぐあとに、耳にふう、と息を吹き掛けられる。

なんや、こんな金造知らん。

心臓が煩くて、ぎゅっと目を瞑った。



「俺、知らんかったけど、」
「…なん、」
「★って案外ちっこいんやな」
「は?」
「なんつうか、薄いわ、からだが」
「そ、そりゃ男のあんたに比べたら、」
「それに、」
「ちょ、っ」

アップにした髪型で露になっていたうなじに、鼻を押し付けられたのがわかった。
くすぐったいというか、なんやぞくぞくしてたまらん。


「ええにおいするし」
「…変態、廉造に似てきたんちがう?」
「ばっ、バカ言いなや!」
「わ、」

やられっぱなしでたまるかと言い返せば、ばっと金造が離れていった。ちらり盗み見た彼の横顔は、やけに赤くて。


「あのド変態と一緒にすな。俺は、俺は…お前にしか言わへんのやから」
「な、なんやねん、それ…」


あかん。私も顔が熱い。




芽吹く
(それはもしかして、恋心)



「あれ柔兄、お客さん?」
「おお廉造、★ちゃんが来とんのや」
「★ちゃん?ってまさかやっとくっついたん?」
「さあなあ?金造はド阿呆やからまだやないか?」
「せやなあ…さっさと告ったらええのに」
「はは、★ちゃんかいらしいからなあ〜金造もぼやぼやしてられへんよなあ」
「俺、★ちゃんにアタックしてみよかなあ」
「お前みたいな変態にあない別嬪さんは勿体ないわ」
「ちょ、柔兄ひど!」



20120702




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -