金曜午後11時半









現パロ/キメ学軸









「……ん、なあに」


お互い残業を終えてヘトヘトで帰り着き、テイクアウトの夕食を終えてシャワーも浴びて、二人暮らしにしては大きめのソファーに並んで座って。
缶ビールを呷っていた実弥が、不意に隣に座って携帯を見ている名前の髪に指を絡める。問い掛ける彼女はしかし視線は携帯から離れない。


「髪」
「かみ?」
「伸びたなァ」
「ああ、そうかも」


絡めてはほどき、また一房取っては絡めてほどく。
お風呂で入念にトリートメントした名前の髪は艶々と部屋の照明に輝き、細いそれは癖になる手触りだ。実弥は飽きずに彼女の髪を触り続け、そうすると。



「短い方がすき?」


やっと彼女の視線が実弥に向く。


「よくわかんねェ」
「どっちでもいいのね」
「どっちでもいい」

お前ならなァ。

さらっと彼女を喜ばすことを言ってくれるから、随分慣れたつもりでもまだ照れてしまう。名前が笑うと、実弥も口角をあげる。
そうしてソファーの背もたれに乗せていた肘を伸ばして、隣に座る彼女の頭を引き寄せて撫でる。


「実弥は名前ちゃんが大好きだもんね?」
「そうだなァ」
「ふふ」
「名前チャンは誰が大好きなんだァ?」
「んー、不死川先生かなあ」
「は、イケナイ奴だなァ」
「そう、禁断の恋なの」
「そりゃァ燃えるな?」


耐えきれなくなって彼女が笑い出せば、実弥もくつくつとおかしそうに笑う。

二人は同級生で、高校の頃からの付き合いだ。彼女は会社勤めだし、教師として働く実弥の姿は想像するしかないのだけれど。
実弥が教師なんて信じられない!というのはいまだに二人の間でこうしてネタになる。



「学校でJKに言い寄られないでね?」
「んな物好きいねェよ」
「え、私って物好き?こんな先生居たら毎日が薔薇色だよ?」
「薔薇色…」


実弥はまだ笑っている。ツボに入ったのか、酔いが回っているのか。
珍しく肩を震わせてわらう実弥に、名前が寄りかかる。大きくて温かな手が何度も何度も彼女の頭を撫でていく。



「それよりお前こないだのなんとかマネージャーとかいう野郎は大丈夫なのかよ」
「ああ〜うん多分」
「多分だァ?」
「同僚が色々言ってくれてるみたいだから大丈夫でしょ」


こないだのなんとかマネージャーというのは、名前が参加しているプロジェクトチームのメンバーでお偉いさんの息子だか甥だかで、実弥は会ったことはないがとかくいけ好かない男だ。
名前が独身であると知った途端あからさまにモーションをかけてくるものだから辟易している。夜に電話がかかって来た時に実弥に見られて発覚したのだが、その時は俺がかけ直して話してやると言う彼を抑えるのに随分苦労したことは記憶に新しい。

いまだって実弥の額にわずかに青筋が走っているのを見て、名前はこっそり冷や汗をかく。




「…なんかあったら俺に言え。すぐ行く」
「ん、ありがとう」


実弥の大きな手が頭から降りて、名前の耳をやわやわと触れていく。
くすぐったさに少し身をよじれば、実弥の目が妖しく細められて。それに捕らえられれば、彼女にはもはや成す術はない。



「ん、」
「どうしたァ、名前」


低く、甘やかな声がすぐ近くから聞こえると、彼女がわずかに潤んだ瞳で見上げるから。
実弥はにやりと口角をあげて、空いた方の手で彼女の顎をすりすり撫でる。自然と上がった顎に指を添えて、そうすれば互いに互いしか見えなくなる。



「…なァ」
「……ん?」
「明日休みだよな」
「ん、そうだね」
「じゃあ、寝坊してもいいな」
「ふふ、そうだね」


ちゅ、と触れるだけのキスをして、鼻がくっつく距離のまま。


「夜更かししようぜェ、名前」
「…イケナイ先生と?」
「…なるほど今夜はそういう設定かァ」
「あはは、設定」
「じゃあたっぷり可愛がってやらねェとな?」


名前チャン?


どうやら今日の彼はご機嫌だ。程よく回ったアルコールと、彼女から香る甘い香り。明日は休日の金曜の夜。あとはもう他に何も要らなかった。
名前もまた、妖しく目を細めてわらった。



「夜更かししようか、実弥」
「望むところだァ」



かさなる唇。からむ指先。
しあわせな夜は更けていく。





金曜午後11時半
1週間頑張ってよかった!













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