手ずから劇物










「だーっからうるっせェお前!」
「うるっさいのはあんたでしょ!ぎゃあぎゃあ喚くな男のくせに!」
「てめェこそ女のくせにもうちょっとしおらしくできねェのか、あァ?!」
「しおらしかったら鬼殺隊になんていないわボケ!」
「てめェああ言えばこう言う…!」
「だったら始めっから私の言う通りにやりなさいよ!」
「だからなんっでてめェの言う通りにしなきゃなんねェんだボケェ!」








「…で、あれはなんなの?」
「ああ、風柱と名前さんな。仲良いよなあ本当」


合同任務の集合場所に到着した善逸が見たのは、怖いおっさんと可愛いお姉さんの派手な口喧嘩だった。
手近にいた以前見たことのあるような気のする隊士に聞いてみれば、違うそうだけどそうじゃない答えが返ってきてぽかんとした。


「あの…可愛いお姉さん?名前さんって言うの?」
「そうだよ。お前会うの初めてか?不死川さんが風柱になる前、どっちがなるだろうって賭けのネタになった人なんだってさ」
「へええ…じゃあ強いんだな」
「そうだなあ。めちゃくちゃ強いし、風柱にあんな口聞けるの鬼殺隊の中であの人だけじゃないか?」
「ああ…そんな感じする…」



とりあえず、見目麗しいお姉さんには興味が湧くのは致し方ない。自然の摂理だ。だけど青筋浮かべた風のおっさんに食ってかかる剣幕と言ったらいい勝負だ。

合同任務なので他にも十名近い隊士がいるというのに、二人はまるで周りに気を配る様子はない。今回の任務、始まる前から非常に不安である。
善逸は顔色が悪くなっていくのを感じた。





「大体ねえ、今回こんな大人数なんだから効率良く分けて包囲しないといけないのは子供だって分かることでしょ?」
「チッ、数が多けりゃ有利な訳じゃねェだろうがァ」
「んなことは百も承知で言ってんの!ただ血気術が厄介なのがわかってる以上まとめてかかっても無意味でしょ」
「だーから俺が単騎で突っ込むっつってんだよォ」




どうやら喧嘩の原因は今回の任務の作戦についてらしい。善逸もこんな大人数の合同任務は初めてだったし、柱とそれに近い実力者が派遣された以上、その厄介な血気術ってやつは相当に厄介なのだろうと想像がつく。

まあ、だけど。


「…あれはあの風のおっさんが我が儘言ってるだけじゃないの…?」
「まあなーでもそうでもないんだよ」
「はい?」







「バカなの?あんたが単騎で突っ込んで残りの隊士何しろって言うの?あんたの後方支援と隊士のお守りなんて、言っとくけど私は絶対!絶っ対嫌だからね!」
「てめェ自分が一人で突っ込みたいだけじゃねぇかァ!」
「あんたの尻拭いは嫌だって言ってんの!」
「誰がお前に尻拭いされんだバカがァ。してやってんのは俺の方だろいつもいつもォ!」




大声と早口で捲し立てる言葉は、若くて綺麗なお姉さんがまあ目も当てられないはしたなさではあるが。



「ああなんだ。似たもの同士か」
「まあそういうことだな」



善逸ははぁ、と溜め息を落とす。日が暮れる前からこの調子では心底先が思いやられる。この二人、同じ任務に就いちゃだめじゃないの?
大声に紛れて聞こえる二人の音は、憎しみこそないものの本気で苛立っているようだった。

今夜俺は無事に夜を越せるのか。善逸は二人まとめて突っ込んで自分達は置き去りになるという最悪な妄想にまた溜め息を吐いた。






のだったが。






「「風の呼吸、」」






「………え、」
「うわーすげェなやっぱり」


何という事だろう。変異した巨躯に大きな翼で飛行する鬼だった。然し風のおっさんと可愛いお姉さんは、それをあっという間に斃してしまった。厄介な血気術とやらを見る事もなく。

二人の息はぴったりで、さっきまでの口喧嘩が嘘みたいだった。言葉を交わす事なく一瞬で互いの技を読み、無駄な動きひとつなく。二人が起こした斬撃が巻き起こした風は、轟音をたてて吹き抜けて行った。





「……やっぱりこんなに大勢いらなかったなあ」
「俺一人で充分だったんだ」
「はーいはいさすが風柱様ぁ」
「……名前お前また速くなったなァ」
「うん?そう思う?まあね?」
「まあまあだな、まあまあ」


ああ、なんだ。
善逸は途端に静かになった夜の空気に響いてくる、二人の音を耳にして。


「よォし朝まで警らすっかァ!」
「お、いいね、走る?」
「いいかお前らァ!ついて来い!」
「え、この大人数で走るの?」
「なんか文句あんのか名前、あ?」
「迷子が出たらまた私が捜索しなきゃじゃん…」
「柱の命だァ諦めろ」
「えー横暴ー!」



粗野で柄の悪い大人たち。けれど二人の音は、なんというか聞いていて心地良い。お互いを信頼し、大切に思っているような。

なんて事だ。風のおっさんあんな恐ろしいなりして、こんな可愛いお姉さんと。くそ、不公平だ。
とりあえずそう思わずには居られなかったけど、互いに互いしか見えていない二人をほんの少し、羨ましく感じる善逸だった。


















「ハァ、ハァ、嘘だろ、なんだ、あの人ら、バケモン?、ハァ、」
「おーい大丈夫?」
「ハァ、はっ!名前さん!?」
「このままだと迷子になっちゃうよー我妻くん」
「えええ?!名前!俺の名前知ってるんですかあ?!」
「そう、特技なの私の」
「す、すごいですね!強いし!頭も良いし!俺と結婚しませんか?!」
「ん?うーん、ごめんね、好きな人いるの」
「あああああ、そうですよねえええ」
「よし行くよ我妻君!不死川達に追いつくよ!」
「え、ちょ、俺まだ休ん、」











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