普段から特別メンタルが弱い方だとは自分では思わない。どちらかといえば普段は楽天的だし、明るいタイプだ。
でも、本当に時々なんだけど、些細なことから漠然とした不安に襲われて、押し潰されそうな感情をもて余す時がある。生理前とか、疲れてるのに眠れない時とか、久しぶりに天気の悪い日とか。明日になればもう大丈夫なのに、今日はそんなちょっと困った日のようだ。


「はあ…」

いつもなら前向きに考えられる問題が、今日はとても見通しの悪い難問に思えて仕方ない。落ちた溜め息は重苦しい気分を余計に煽って、ざわざわする胸に拍車をかける。
残業も手につかなくなってきて、わたしはついに机に突っ伏した。


「★?」
「……柔造?」

襖の向こうからすこし控えめに聞こえた自分の名前は、低く優しい恋人の声で。問い返す声が、思いの外小さくて情けなくて、自分でもすこし驚いた。


「やっぱり、まだ居ったんやな」
「柔造、おつかれさま」

すす、と襖がほとんど音無く開いて、すこし垂れ目の恋人が入ってくる。



「まだ終わらへんのか」
「ん…もうちょっとかな」
「明日でもええんやないか?」
「え、でも」

つい今しがた放棄した書類に向き直ってそう言えば、真面目な彼にしては珍しい言葉が聞こえて。



「なんや今日元気なかったやろ」
「え…」
「そんな顔して、無理に笑わんでもええよ」
「そんな顔、て」
「泣きそうな顔してんで?自分」
「そんなこと」
「まあたまにはええやないか、無理に頑張らんでも」
「じゅ、ぞ…」
「カレシの前でくらい、素直に甘えとき」
「……っ」

私の言葉を遮って紡がれる言葉は、どれもどこまでも優しくて、あったかい。かなわないなあ、って思ったら、不意に力が抜けて、涙腺が緩んでいた。



「よしよし」
「…っ」

いくら終業時間はとうに過ぎたとはいえ
、ここはまだ出張所内なのに。優しくしっかり抱き締められて、頭を撫でられて。からだのなかの不安が流れるみたいに、わたしの目からは涙が溢れていた。


「じゅ、ぞう…っ」
「んー?」
「あり、がと、」
「礼は★からのキスでええわ」
「も、ばか」
「おん、馬鹿でええわ」

すこし晴れた心と、ひどく温かい気持ちに自然と笑みが漏れる。

自然と重なった唇の温度に、わたしはもう不安だったことをすっかり忘れていた。




きみは魔法
(わたしの不安を消してくれるの)




「んっ…じゅ、ぞ、」
「んー?」
「待って、まだ私仕事、が」
「明日でええやろ」
「明日所長に提出するんだから、っ!」
「あかん、もう今日は俺のこと以外考えるな」
「え?ちょ、待っ……!」
「なんや、★もその気やん?」
「バカっここ出張所…っ」
「よっしゃ、ほな帰るで」
「や、待っ、」





20120605











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