志摩柔造、25歳。好きな言葉は雨垂れ石を穿つ。熱くなりやすいがための短気さは置いといて、忍耐するんは嫌いやない。自分で言うのもなんやけど弟達や坊も居はったから世話好きやし、女の子にもまあまあモテる方やと思う。そんな俺が今、非常に悩ましい問題にぶち当たっている。



「こんにちはーっ」
「お、★ちゃんやん、こんにちは」
「柔造さん!金造おる?」
「ああ、あいつ今おとんのお使い中でなー」
「なんや、おらんの」
「あと15分もしたら来るやろ、上がって待っとき」
「ええの?そんならお邪魔します」
「どーぞどーぞ」

この子は★ちゃん。こんなにかいらしいのに信じられんことにドアホの金造の恋人や。おとんの使いで出掛けとる金造の代わりに座敷へ通して、冷たい麦茶とお茶菓子を出す。「なんも構わんでええのに」と眉を下げながら笑う彼女につられてわらう。ノースリーブの袖から伸びる真っ白な二の腕が眩しい。


「柔造さんも今日お休みなん?」
「ああ、昨日まで東京に出張しててん」
「そうだったん?それはお疲れさまやなあ」
「大した仕事やなかったし、移動が一番疲れたわ」

あはは、とからから笑う★ちゃんについ目を奪われる。あかん。


他愛ない話をしながら、俺の視線はその細くて綺麗な髪や、すらりと伸びる手足や、白い胸元につらつら移る。この子は金造の彼女。それなのに、俺の頭のなかの★ちゃんは俺しか見てなくて。

ああ、あかん。


「なあ、★ちゃんて金造と付き合ってどのくらいになるん?」
「えー?もうすぐ1年たつかなあ」
「1年かあ…」

ずっとかいらしい子やなあとは思ってた。でも弟が★ちゃんに恋してるのは明らかやったし、付き合いはじめたと聞いたときは素直に良かったなあと言えたはず。だけどいつからか、俺の視線は弟の彼女を見る物とは変わってしまって。ずっと気付かないふりをしてきたけれど、さすがに認めざるをえなくなってしまったのが最近や。


「なんや柔造さん、考え事?」
「え?あ、いや」

くすくす笑う★ちゃん。苦し紛れに目の前のもなかを口に放り込む。甘いのに、砂を噛むような気持ち。


「あ、」
「ん?」
「柔造さん、もなか付いてる」
「え」

よいしょ、と★ちゃんが手をついて左手を伸ばす。俺の目の前には彼女の胸元。ちょ、待っ、

「ほら、こどもみたいやなあ」
「あ、おおきにな」

あかん、あかんて。
★ちゃんの指先がほんのすこし、俺の口のすぐ横に触れて逃げていった。笑う彼女に俺の心臓は鷲掴まれる。


「柔造さんて、いつもしっかりしたはるんにかいらしいとこもあるんやね」
「そうやろか、」
「うん、そういうの素敵やと思う」
「え、」

どういう意味やと頭が一時停止したとき、

「ただいまー!」
「あ!金造お帰りー、柔造さん、お茶ほんまにご馳走様でした!」
「あ、ああ」

金造の声にぴょんと反応して顔を綻ばせた★ちゃんは、足早に恋人の元へいってしまって。


「あかんやろ、そんなん…」


もう戻れない、かもしれない。




(弟の彼女を好きになりました)



thx:家出
20120531









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