「………え、」


真夜中。
のしかかられる重さと息遣いに、身の危険を感じて目を覚ました。


「獅郎、なに、してんの」
「…お早う、★」


仰向けの私の腰あたりに乗るようにして、両手で私の掌をシーツに縫い付けているのは紛れもなく恋人で。


「……まだ夜中でしょ」
「そうだっけな」
「ていうか、なに?退いて」
「嫌だね」


部屋は暗くて、間接照明の足元灯が薄ぼんやりと部屋を照らしているだけ。
ぐっすり眠っていた私の頭はまだ覚醒しきらないけれど、私を見下ろす獅郎の目が妙に爛々としていることに気付いた。



「いま、なんじ」
「知るか」
「何しに来たの?獅郎」
「…なァ★、ジュン君って誰だ?」
「………は?」


ぽかん、目も口も半開きの凄い顔をしてしまった気がするけれど、獅郎はニコリともしない。
狂気すら感じるその目は、わたしを射抜いて離れない。

彼が口にした言葉を反芻するように考える。
ちょっと目が覚めてきた。


「ジュン君、ジュン君、……ああ、」
「……」
「ジュン君はわたしの先輩」
「先輩?」
「うん、中学の時のね」


ジュン君と何年振りの再会を果たしたのは今朝のこと。
中学の時1年だけ同じ校舎で学んだ2つ上の先輩で、まさか祓魔師になっているとは思わなかった。
たまたま支部に来ていた彼とばったり会って、名前を呼ばれるまでそれがかつての先輩とは分からなかった。

しばらくうちの支部に出向になったから、宜しくなって感じのことを話して、昔の淡い初恋を思い出したりして。
数少ない共通の友人の近況なんかを立ち話していたら、そのまま食事して帰ろうか、という話になるのは自然な流れ。
かと言ってそのあとふたりで何処かへ行ったり、甘い雰囲気になったりとかしたわけではなくて、懐かしい話や仕事絡みの話をして、ついでに連絡先を交換して、別れただけだ。



「……初恋の相手だな?」
「あー、そんな話したっけ?」
「初恋のジュン君だろ」
「獅郎の記憶力って変なとこでいい…」
「単純明快だ。お前に関することだけいいんだよ」


口調は冗談めかした軽口なのに、表情は真剣だ。
いや、ちょっと口の端だけが笑んでいる。
まるで強敵を前に昂ぶっているか、もしくは久々の2人の時間に私を組み敷いた瞬間の顔に近い。
つまり、面倒なことになってるらしい。


「ジュン君と2人で歩いてたって?」
「あー、夕飯たべて帰った」
「ふたりで」
「うん。でも夕飯食べてまた仕事でーって別れた」
「初恋のジュン君と」
「は……つこいだけど、」
「ときめいたかよ?」
「……嫌な男ー」
「お前が変な若い男といちゃいちゃしてんのが悪ィ」
「変な若い男じゃないしいちゃいちゃもしてないし。獅郎の情報全て間違ってるよ」



わたしもわたしで止せばいいのに、売り言葉に買い言葉。
ジュン君は確かに初恋のひとだった。
淡い想いは伝えもせず淡いままたち消えたし、いまその彼と出会ったところでお互いにあの頃とは変わっているわけだから初恋よろしく再燃したりもしない。

そんなこと、大人になったら誰だってわかるだろう。再燃してどうこうなんて、ほんの一握りの人たちにしかありえない。



獅郎が嫉妬深いことも、こうなるとちょっとやそっとじゃ機嫌を直さないことも経験上知っている。

あー、


「★」
「ん」
「いま面倒くせェって思ったな?」
「…オモッテマセン」
「ほー」
「……獅郎、わたしがジュン君とどうにかなると思って飛んできたの」
「……わりィか」
「……悪くはない」



面倒くさいひと。
わたしのこととなると、分別なくして焦ったり慌てたり。

ほんと、


「好きだよ」
「…あ?」
「だからあ、そんな獅郎が好きだよ」
「……お前俺を手懐けてるよな」
「えーだって本当のことを言っただけ」
「ハァ…手懐けられて喜んでる俺も俺か」
「ふふ」



やっと緩んだ獅郎の大きな手のひらから逃れて、その首に両手をまわす。
獅郎の匂い、視線、声。
初恋の人だろうとハリウッド俳優だろうと、勝てるわけないのに。
心配して居たたまれなくて飛んでくる辺り、ほんと可愛いひとだ。




「★」
「ん、」
「俺の方がもっと好き」
「……はいはい」


重なった唇は熱い。



かわいいひと
(いや絶対あたしの方が好き)




「……っ、はあ、」
「あ、でも」
「え?」
「明日俺にそいつ紹介しろよ」
「………なんで」
「いいだろ。一応お前の上司だし?」
「上司ですって紹介していいなら」
「……彼氏ですって紹介しろよ」
「………(めんどくさ)」
「めんどくさがるな!」
「ちょ、くすぐらないで、ばか!」





20180701









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