*微裏







「★、ちゃん….っ」
「………っ、あ」


一人暮らしに似合いの狭いベッドの上からピンク色の髪越しに暗い天井を見る。
小さなライトだけが灯る深夜のアパートの一室は、毎日寝起きしている慣れ親しんだ私の城だ。
それが今夜は、熱い吐息と汗と乱れた息遣いで見慣れぬ淫らな空気でいっぱいになっている。
それを作り出すのは私というより、彼、志摩廉造だ。


「…っはあ、はあ」

私の上で果てた彼が、手で額を拭う。
見下ろす目は伏せられていて、こめかみを一筋汗が流れた。
なんて色気だろう。


「大丈夫?廉造」
「ん、大丈夫…★ちゃんは?」
「…明日立てないかも」
「ぶは、ええなそれ」


破顔した彼が急にあどけなく見える。
コドモみたいな可愛い笑顔。たった今まで私を追い立てていた色気が満ち溢れた男の顔は、すぐ立ち消えてしまう。



「なんか、飲もうか」
「うん、めっちゃ汗かいた」
「ふふ、頑張ったもんねぇ」
「そらそうや!この日を楽しみに生きてきてんから!」
「大げさ」
「ほんまやで?★ちゃんに会えるって思うから毎日気張って我慢して…やっと会えたんやもん」
「はいはい」


するりと彼の下から抜け出してシャツだけ羽織ると、ダイニングに向かう。私の城は1DKの小さなアパート。だからどこに居ても話ができて、どこに居ても近い。

冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出して彼に投げると、缶ビールのタブを引き上げた。


「★ちゃんビールなんて飲むんや」
「なに?おっさんくさい?」
「んーん、酒弱そやなって」
「まあ、強くはないけど、たまにはね」
「ふーん」

ごくごくとボトルの半分くらいまで一気に飲んだ彼が、ベッドから立ち上がる。
ダイニングに立ったままの私を、正面から抱き締めた。


「なーに」
「エロいカッコしてんなあと思って」
「…若いわね」
「おん、まだまだいけるで!」
「ばか」


大きな手のひらがシャツの下を通って背中を撫でる。ボタンを留めたわけでもなかったから、身体が彼と密着していた。
唇が重なる。

私のアパートは正十字学園町の外れにある。
学園内に仕事を持つ者の専用アパートで、わたしは購買勤務。そこで初めて彼と出会った。
学生とどうにかなるなんて、今まで考えた事もなかった。
勤務している限りこの専用アパートの家賃はタダ同然みたいな破格だし、贅を極めた学校は購買部とは言え、短い間働いた普通の会社の事務職の頃より給料が良かった。
そんな理由で続けていた仕事だけど、毎日来る学生達は明るく可愛い子も多かったし、それなりに楽しんでいた。

一番忙しい昼休み、いつも通りてきぱきレジ業務をこなしているときに廉造と出会った。

「ありがとうございましたー」
「……お、おおきに」

お釣りを渡して袋を渡す。
目を合わせた彼の頭はピンク色で、顔は面白いほど真っ赤だった。




「…ふふ」
「ん?」
「なんか、初めて会った時のことを思い出した」
「ああ〜…恥ずかしなあ…」
「だって、顔すごい真っ赤で」
「衝撃の出会いやったんやから、しゃあないやろ」
「そして廉造の猛アタックで、私は見事落とされたわけだ」
「ふふ、当たり前や。★ちゃんは俺の運命の人やってんから」


抱き締められたままの至近距離で、廉造が私の額から輪郭を撫でていく。


「★ちゃん」
「ん…」
「俺と出会ってくれて、ほんまにありがとう」
「…こちらこそ?」


私たちの年の差は10近い。
こんな若い男の子にこんなに夢中になるなんて思ってもみなかった。
見上げた先にある瞳が私を優しく見下ろしている。


「廉造」
「ん?」
「…どこにも」
「うん」
「どこにも行かないでね」
「当たり前やろ。俺は★ちゃんが居らんとこではよう生きていけんねん」
「…うん」


ぎゅっと抱き締めれば、もっと強い力で抱き締められる。
10近い年の差のふたり。彼はまだ高校生で、私とは全然違う。だからこの恋は、私が望むような結末は迎えないと思う。

だけど、今はまだ、





(いつか燃え尽きてしまっても)



「なあ、次いつ会えるん?」
「廉造テスト期間でしょ。2週間くらいはお預けだね」
「え!無理!」
「勉強頑張らないと2週間じゃ済まないよ」
「んな殺生な…」
「頑張れ高校生っ」
「あー、くそ」
「…っちょ、廉造」
「だめ、お預け前のチャージタイムやから」
「待って、まだ…っ」




20180511









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