「…………あ」

見つけた、やっぱり今日もここにいた。

冬の屋上は寒い。でも、だからこそ彼女はいつもここにいる。冷たい空気の中で吸うたばこが旨いから。



「★ちゃん」
「……廉造」

嫌そうに顔を顰める彼女にも、もつ怯まない。最初こそそれなりに傷付いたけど、これが彼女なんだと気付いたから。


「まーたサボり?」
「あんたもやん」
「俺は★ちゃんに会いたくて」
「あたしは会いたないけどな」
「今日ええ天気やねー」
「…」


★ちゃんはかわいい。
色白だし、髪の毛はさらっさらやし。染めてる子もいるけど、★ちゃんは黒髪や。
目はくりんとしてて、まつげも長い。絶対モテる顔というか、学年でも可愛い方に間違いはない。なのに彼女がめちゃくちゃモテる訳でないのは、いつも冷めてるから。
行事は欠席。授業はサボり。成績は悪くないけど特別良くもない。いつもこうして、立ち入り禁止の屋上でたばこを吸っている。


「なーあ、★ちゃん」
「…なに」

こうして口を聞いてくれるまで、2ヶ月以上屋上に通ったっけ。


「今日何日か知ってる?」
「知らん」
「おお、即答やね!」
「なんやねん、あんた」
「今日は14日やで」
「へえ、」
「バレンタインデー、やで?」
「……だから何やねん」
「え!バレンタインだから何やねんって、★ちゃんそりゃ殺生やわあ」
「…喧しいわ、あんた」


綺麗な顔におもっきしシワを寄せて、彼女はメンソールのたばこを取り出す。

華奢な模様のガスライターが彼女の宝物。誰かに貰ったのだろうとは思うけど、誰かは知らない。


カチッ

立ち上る白い細い煙は、彼女に似合いの引き立て役だ。


「なーあ」
「ん」
「バレンタインてぇ、」
「…まだその話してたん」
「好きな子ぉにチョコレートあげる日やんか」
「…」
「★ちゃん、俺にチョコとか…」
「……本気で言うてんの」
「冗談やん、ため息つかんといて!」
「…」


授業中の屋上。
寒空の下、煙だけがゆらゆらと心もとない。

「これ」
「…なん」

フェンスに背を預けてもたれる★ちゃんの向かいに移動して、隠し持っていた板チョコをじゃーんと取り出した。

「なんって、チョコレートやん!」
「だからなんやねんな」
「★ちゃん、知らんの?逆チョコ」
「…」

そう、俺が持ってたのは、パッケージが鏡に写したように反転している逆チョコとかいう商品で。


「俺、★ちゃん好きやから」
「…いらん」
「えー?★ちゃん甘いの好きやろ?」
「あんたにバレンタインのチョコもらう義理ない」
「もらう義理てなんやねんな!もらうくらいええやんかあ」
「借りつくるみたいやん」
「チョコで?!」

人と関わるのが苦手らしい彼女は、俺の差し出した逆チョコを受け取りもしてくれない。


「★ちゃん」
「ん」
「チョコは別にどうでもええねんけど」
「…」
「★ちゃんのこと好き言うんはほんとやで」
「……あほやな、あんた」
「……おん」

2月14日。ほんのり春の香るお日さまのもと、赤くなった彼女がひどく愛おしかった。





神様どうかこの恋は
(今はまだ、走り出したばかりでも)



20130214 happy valentine's day !










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