「なあ、煙草1本くれねェか」
「えーしょうがないですね」

今日の任務は獅郎さんとふたりだ。本来なら獅郎さんひとりで片付くような中級悪魔だが、群れてしまって質が悪い。それでわたしが手伝いに駆り出されたらしい。

ほんの今まで火を吹いていた銃をおろしたところで、白く煙る視界に立つ彼はやけに絵になる。
決していいとは言えない目付きでちらりとこっちを見るなり、彼は煙草をくれと言ったのだ。


「はい、どうぞ」
「おお、ありがとな」

差し出したケースから、ごつごつした細い指が1本を抜いていく。ライターで火を点けるなんてことない仕草も、目が釘付けになりそうなくらい様になる。


「あとは親玉だけだな」
「そうですね、わたしは援護します」
「ああ、頼む……お前この煙草何ミリだ」
「はい?」


当たり前だが敵意剥き出しで怒り狂っている悪魔に、獅郎さんの攻撃が実に的確にヒットする。


「だから、何ミリだ」
「……8ミリ、だったかな」
「は、ち、ミ、リぃ?」
「はい。なにか、?」


獅郎さんが攻撃だけに集中できるよう、悪魔からの攻撃をわたしが迎え撃つ。この分ならすぐに片付くだろう。
そんなときに、獅郎さんが恐い顔でじろりと私を見た。


「お前なあ、女がんな強い煙草吸うもんじゃねェ!」
「は、?」


獅郎さんが青筋浮かべて怒鳴ったと同時に、悪魔が断末魔の叫びを上げて消失していった。

途端に訪れる静かな空間に、舞う粉塵。


「…やった…」

達成感に胸を撫で下ろす。
けど、隣の上司はそうではないようで。


「聞いてんのか?★!」
「え?」
「女が煙草吸うなとは言わねぇが、せめて3ミリ、いや1ミリにしとけバカ!」
「はい?そんなの私の勝手じゃないですか。大体いまさら1ミリなんて吸った気すると思います?」


獅郎さんが女だからどうこう言うなんて、なんだかショックだった。いきなり頭ごなしに怒鳴り付けられて、わたしも上司なことを忘れて大声になる。


「それはそうだが、身体に悪ィだろうが!」
「あなたが言いますか?!」
「俺は男だから構わねぇんだ、お前とは訳が違うんだよ!」
「訳がわかりません。」
「いいか、お前は将来俺の、!!」
「俺の?」

途端に訪れた沈黙に、突然獅郎さんの顔がかあっと赤くなる。え、なに?なにごと?



「い、いやなんでもねえ!とりあえず、8ミリは止めとけ」
「嫌ですうー」
「てめぇコラ★!」
「明確な理由もないままストレス社会に生きる部下の癒しアイテムを奪うつもりですか?」
「だから、だからだな!」
「なんでまた更に赤くなるんですか」
「〜〜〜っ!!」


さっきまでの聖騎士様とは思えない、真っ赤に染まった顔。そのギャップに不覚にもときめいた。さて、どうしてくれようか。






8ミリ





「お前は、っ、俺の子供を産む予定だから、だ…」
「…………」
「なんだよ!黙るな!」
「メフィストさーん!獅郎さんがセクハラするー!」
「コラ!待て★!ちゃんと聞いてくれ!」



20120719










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