そとはしとしと雨が降り続いていた。ローが暮らすマンションのリビングのソファでうつぶせに寝転ぶわたしの視線の先は、その整った横顔だ。

「……なんだよ」
「なんでもないよ?」

ダイニングテーブルは一人暮らしとあって小さめだけれど、それでも一人で暮らすには些かおおきすぎる部屋。ローん家はお金持ちなのは知ってるけど、わたしの暮らす学生アパートとは大違いだ。
羨ましいぞこの野郎と嫉妬もこもったわたしの視線を感じたらしく、ダイニングチェアで本を読んでいたローは眼鏡を取って本を置いた。

悔しいくらいかっこいい。なんていうか、様になる。


「じゃあなんだってんな穴があくほど見てんだよ」
「べっつにー」

ごろんと仰向けになると、天井にはセンスの良い照明機具。
幼なじみがこんなにイケてるせいで、わたしの理想は高い。つまり彼氏ができないのはローのせいでもあるのだ。


「…」
「…」

わたしの足元のソファにローが座る。身長160弱のわたしが仰向けになってもなお、ゆったり座れるくらいソファは広い。もう一度言うが、ローは一人暮らしだ。ていうかわたしのアパートはソファすらない。

ひじ掛けを枕にローを見る。背もたれに片腕を投げ出して、どこか考え込むような顔をするロー。ああ悔しい。かっこいい。

互いの部屋を行き来することは、大学生になった今もよくあることだ。でもローの部屋の方が格段に居心地がいいものだから、わたしが入り浸ってばかりいる。
シンプルながら、贅沢な部屋。でもいやらしくなくて、ほんとにお金持ちなんだなって思う部屋。ローの香りがして、空気まで落ち着く部屋。


「……ね」
「ん?」
「マッサージしてよ」
「…誰が」
「ローが」
「誰に」
「わたしに」
「断る」
「ちぇ」

きょうは神田をえらく歩いた。だる重いふくらはぎと足元に座るローを見て言ってみたけど、もちろん断られることなんて重々承知の上だ。


「いーもん、サンジくんにしてもらうから」
「サンジくん?」
「そ、こないだの合コンで知り合った、ナミの友達」
「…合コンには行くなと」
「行くなって言われる前に行ったときの話」
「…そいつと会ってんのか」
「うーん、まあ、うん」

ローが眉間に皺を刻む。
不機嫌の理由がわたしの異性話に対してだと思うと、なんだか嬉しくなってきた。
だからほんのすこし嘘をついた。サンジくんとは、合コンのあとでたまたま街で会ってすこし話しただけなのだ。


「付き合うつもりか?」
「…まだそんなことまで考えてないけど」
「2人で会ってんのにか」
「んー…」


あんまり嘘を吐くのもなあ、と考え込んだのだけど、ローの機嫌はぐっと悪くなった。


「俺には言えねェってのか」
「え、いやそんなんじゃ」
「サンジくんてのはどんな野郎だ」
「え?えーと、さらさらの金髪で、すっごく紳士なフェミニストで、優しくて、気がきいて、」
「……へえ」
「で?サンジくんにナニしてもらうって?」
「え?いや、あの、」
「ナニ、してもらうって?」
「その…マッサージ、を」


ああ、ヤバい。
ローを焦らせてやるつもりだったのに。
今のローは完全に怒ってるし、すごく怖い。だって笑ってるもん。
しかもなんか、何、ってちょっと変換違うし。


「そうか」
「ろ、ロー、」
「不束者な幼馴染みだが、俺の大切な友人だ。そのサンジくんとやらに触ってもらうのに失礼のないような女にしてやらねぇと俺の名折れだな」
「え?」


にやりと口角を上げたローの長い指が、わたしの片脚をとった。


「ロー、何する、の…」
「黙っとけ」


関節の目立つ指が、つう、と脛をなぞる。冷たいとばかり思っていた指先はとても熱くて、ぞくりと背中を戦慄がはしった。

そして、次の瞬間。


「へ、ローっ、」
「…」
「や、ちょ、っ」
「…」

ぎし、とソファが軋んで、ローがわたしに覆い被さるように身体を動かす。
お気に入りのショート丈の薄い色合いのデニムパンツの裾のすれすれ、つまり太腿に、ローの唇がチュ、と可愛らしいリップノイズのともに触れたのだ。


「やだ、なに、」
「黙っとけって」


蹴り飛ばすことを考え付きもしなかった。
そのままローがわたしの太腿にペロリと舌を這わしたことにより、頭の中で何かがショートした。


「っ!や、!」
「押し付けるなよ」

思わず掴んだローのちいさい頭。くしゃりと髪が崩れるのもまるで意に介さないで、ローの口角はさらに吊り上がる。


「あ、…!」
「……なんだよ、感じたか」

ちゅうっと強く吸い付かれて、ちりっとした痛みと共にわたしの太腿の内腿寄りの場所に真新しいあざが残された。


「違、!」
「違わねェだろ」

くつくつと楽しそうに笑うローが悪魔みたいに見える。それもすごく妖艶な悪魔だ。


「や、め、」
「サンジくんに、失礼の無ェようになあ?」
「あ、やあ…」
「嫌?よく言うぜ」


ローのすこしざらざらした舌が、わたしの脚を優しく優しくなぞっていく。
ほんの触れるくらいの力なのに、ぞくぞくと背筋が粟立って仕方ない。


「…っ、ふぁ、」
「…エロい顔」

さいごに指先にチュ、とちいさくキスを落として。上目遣いでわたしを見たローがニヤリと笑った。


「なに、すんの…ばか」
「俺流のマッサージ、だろ」
「も、ほんと…ありえない」
「そんな顔して言われても説得力ねェよ」

ばくばくうるさい心臓が口から飛び出そうだ。


「意地悪…」
「俺に嘘を吐くからだ」
「べ、べつに嘘じゃ」
「サンジクンはてめぇのタイプじゃねぇ」
「な、」
「お前な俺がタイプだろ」
「…」

自信たっぷり余裕綽々でのたまう俺様幼馴染みに言い返す言葉も無くて。
わたしの理想が高い原因を心の中で恨むしかなかった。





先天性サディスティック
(そんなあなたにやっぱり虜)



title by tokyo incidents
20130313









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