*学パロ








あ、まただ。
最近よく目が合う。


「★」
「っ、うん?」
「どうした、ボケッとして」
「してないー」


後ろから突然声を掛けてきたキッドに、彼のことを考えていたわたしは必要以上に肩を跳ねさせる。


「次、移動だぞ」
「わ、やばい」


次はマゼラン先生の化学だ。移動だから遅れられない、と、わたしの頭からは彼のことは消えていた。












「あー…どうしよ…」

ざあざあ、強い雨は玄関から臨める校門が霞むくらい激しく降り続いていた。
日直だからってシャンクス先生にこき使われて、すっかり遅くなってしまった。


「…」

どうしよ、傘持ってない。


ローファーのつま先に目を落とす。駅まで歩いたら大変なことになるだろう。
キッドはバイトあるって言ってたし、シャンクス先生に送ってもらえないか頼んでみようかなあ…


はあ、と溜め息をもうひとつ落とした時。


「おい」
「ひっ!」

誰もいないと思っていた薄暗い校舎で降ってきた低い声は聞きなれないもので、大袈裟なくらいにびっくりした。


「…俺は化けもんかよ」
「ごめ、ん…」

振り向いた先にいたのは、最近目が合う、短髪の彼。ふ、と口角を上げてすこしだけ笑う彼は、隈の濃いその目元がとても印象的だった。


「おまえ、傘無ェのか」
「あ、うん…」
「貸してやるよ」
「え、ほんと!」

でも、彼がもっているのは長めのビニール傘1本で。


「え、もしかして相合傘…」
「ああ?不服か」
「いえ、助かります!」










ざあざあざあ

雨はやはり降り続く。
天気予報は夜遅くから雨だったからって、迂闊だった。

すっかり陽が落ちてしまった駅までの道のりを、大きめなビニール傘がひとつ進んで行く。傘を持つのは大きくてごつごつした、それでいて細い手。隣を歩くのは、頭ひとつ分背の低いわたし。


「…お前」
「あ、★です」
「…ローだ」
「ローくん」
「なんだ」
「あ、いや、なんでも」


雨は強く降り続く。
傘の下だけは別世界のようで、閉ざされた2人きりのちいさな空間だ。
特別会話が弾むわけでもないのに、ローくんの低い声が心地好い。なんかちょっとキッドを思い出す。


「お前、キッドの女なのか」
「うええ?違いますよ」
「いつも一緒にいるだろ」
「仲良しなんです、1年の時からおなじクラスで」
「ふーん…」


そうかー、わたしとキッドって、見る人によってはそんな風に見えるのか。
同じクラスの人たちは私たちはただ気が合って仲良しだから一緒にいるだけだって分かってくれてるけど、たしかに知らないひとには2人でいるところがそう見えるのかもしれない。なんかちょっと恥ずかしいなあ。


「ローくん、キッドと仲良いの?」
「いや、ちっっとも」
「へえ、仲良しなんだ知らなかった」
「……」


そんな顔して睨まれたって怖くないもんね。顔面凶器といつも一緒にいるわたしの免疫なめんなよ。


「あ、だからか」
「あ?」
「わたし、最近ローくんと目が合うような気がして。キッド見てたんだ」
「ああ?」
「なるほどねー、キッドとは同じ中学だったとか?」
「…いや、俺は北中だ」
「へー、わたしは東」
「…お前さあ」
「うん?」
「………なんでもねェ」



ざあざあざあ

雨は降り続く。



「やーほんと、助かったよ!ありがとう!」
「ああ、礼なら身体で払え」
「もー」
「痛ぇ」

駅はやけに明るくて、会社帰りのサラリーマンや学生がたくさん歩いていて、当たり前だけど雨はあたらないから傘も閉じられて、2人だけの世界ではなくなった。
ばし、と背中を叩けば振り向いた眉間にシワが寄る。


「★」
「ん?」
「連絡先、教えろ」
「え」
「…」
「いいけど」
「…おう」


このひと、わかりにくいタイプのひとだな。いつもなんか怒ってるみたいな、負の感情ばっかりわかりやすいひと。ああ、だからキッドに似てるのかな。

互いの携帯を交換して、連絡先を登録する。

たくさんのひとが通り過ぎた。



「じゃあ、な」
「うん、ありがとう」


乗る電車が違う私たちは、そのままそこで別れた。
名前がひとつ増えた携帯が、なんだかすこしいつもより大切に思えた。






友達が増えました
(めつきのわるい、背のたかいかれ)



20130310










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