「……ん」

お日様の高い真昼。ひと気のない倉庫の入口が並ぶ廊下は薄暗い。大きなモビーでは波の当たる音も届かない。漏れる吐息だけが、わたしたちの存在を確かにしていた。


「ん…たい、ちょ…」
「……なんだい、足りねェって顔してんなァ?」

無機質な壁に追い込まれた背中がひやりと冷たいのに、あたしを追い込む隊長の色気のありすぎる視線が熱い。


「違っ、」
「じゃあ、もういいんだ?」
「…」

言葉を返せないわたしをくつくつと笑う仕草まで、ひどく艶やかで。


何でだ。わたしは今日は甲板掃除の当番で、エースと競争しながらデッキブラシを軽快に走らせていた。あとちょっとでゴール!ってとこで、エースが指先から火を出して。こんにゃろズルは無しだろとムキになって視線をズラしたのが悪かった。わたしは派手に転んで、バケツを盛大にひっくり返した。しかも2人分の。ビショビショになった甲板とわたしに、マルコ隊長の檄が飛ぶ。
とりあえず水浸しの甲板の一角はエースに任せて、着替えに自室に入って、出て来て、そこに立っていたのは、なんだか不穏に微笑むわたしの恋人だった。
連れて来られたのは、掃除や点検でもなければまず滅多に来ない地下階の倉庫エリア。こんなところに何だろうと思ったら、痩躯にして背の高い彼に壁に押し付けられていた。

そこからひたすらに繰り返されるキスの応酬に、わたしの理性はもはや風前の灯火だ。


「たいちょ、なん、で……」
「ん?」
「なんでいきなり…」
「 いや、別に?あんまりお前さんが楽しそうだもんで、嫉妬したまでさ」
「…」

本当に嫉妬したひとがこんなにさらさらと他人事のように嫉妬したと吐露するものだろうか。
胡散臭そうな目を向ければ、またくつくつと楽しそうに笑う。なんだかご機嫌なイゾウ隊長。


「エースと仲良しなのは構わねェが、下着まで見せてやるこたぁないだろう」
「え、下着?」
「なんだ気付かなかったのか?濡れ鼠になったせいで、黒いブラが透けてたぜ」
「え、あ、え、」

そういえば、さっきまで着てたのは生成りのTシャツにショートパンツだった。
マルコ隊長が目を合わせてくれなかったのは、もしかして目のやり場に困ったから…とか……

ぼんっと顔に火がついて、なんだか急に恥ずかしくなる。水着姿になることはあったけど、同じようなものとはいえ下着はやっぱり恥ずかしい。


「まあ、脇腹の墨も透けててなかなか色っぽかったけどな。野郎共に見せてやるには惜しいだろ」
「…」
「俺の嫉妬、分かってくれるかい?」
「あの……はい」


★、とイゾウ隊長が甘やかに囁く。大きくて綺麗な手のひらが、わたしの脇腹の誇りを愛おしむように撫でる。
途端に、煙っていた熱が燃え上がる。


「…お前のいいとこを見られるのは、俺だけで充分だ」
「っ、はい、…」
「★」
「ん……っ」


言い聞かせるように、誘うように、低くて甘くて切ない声は、わたしの全身を痺れさす。

ちゅ、とわずかなリップ音をたてて、イゾウ隊長の唇がわたしの首筋を愛でる。


「★…」
「イゾウ、隊長…」

重なる唇は、あまりに熱くて。
ひと気のない廊下が、むしろわたしたちの劣情を煽った。





真昼のひみつ


「……ったく★はどこ行きやがった?」
「あ、マルコ隊長、★ならさっきイゾウ隊長に連れてかれてましたよー?」
「ああ?…あいつ見てたのかよい」
「下りてったから…地下階のどっかにいるんじゃないスかね?」
「………ったくあのむっつり野郎め、甲板掃除要員を…」



20130207









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