四皇赤髪のシャンクスといえば、同業者から羨望の眼差しを向けられるほどの大海賊である。其の名を聞けば一般人は震え上がり、政府でさえも一目置く存在である人物。それがシャンクスという人間。なはず、なんだけど。
「★?なあ、★〜」
「……」
「なーあー★〜」
「もう、ちょっと待っててって言ってるのに!」
「あ、やーっとこっち向いた」
「もう、シャンクス…」
わたしは、彼の船の航海士で、今は海図と航海計画とにらめっこしている。つまり仕事中だ。わたしは机に向かっていて、シャンクスはわたしの首に後ろからわざわざ腰を曲げた辛い体勢で隻腕を回してひたすらに名前を呼んでいたのだ。
そうしていい加減に仕事に集中できなくて振り向けば、にかっとお日様みたいに笑う彼の顔が至近距離にあった。
「なあ、昼寝しようぜ?」
「……わたし仕事中」
「船長命令だ、って言ったら?」
「進路が定まらなくてもいいの?」
まるで子どもみたいだといつも思う。諭すように言えば、手を顔に添えて親指で唇をなぞられる。
「航海士はお前だけじゃねェだろ?」
「でもこれはわたしの仕事だもの」
突然妖艶な色を含んだヴァリトンが、耳から背筋をぞくりと駆けていく。
「★」
「待ってて、あとすこしなの」
僅かに走り始めた劣情ともいえる浮遊感を振り払うためにまた前を向く。
羽ペンを手にした途端、その羽ペンがふわりと宙に浮いた。
「もう、シャンクス」
「なあ、★」
そんな声で名前を呼ばないで。
「ベンにお小言を言われるのはわたしなのよ」
「言わせとけよ」
「そういう問題じゃないわ。それにわたしが仕事をしないと皆に迷惑が、」
「でも仕方ねえよ」
「仕方ない?」
「俺はお前に触れていたいんだ。今はお前を抱き締めたいし、キスもしたい。」
「シャンクス?」
「この船じゃ俺がルールだ。違うか?」
「…わがままよ、そんなの」
「まあ、それでもいいか」
節の太い男らしい指が、私の羽ペンを放る。
促されるままに立ち上がって後ろを向くと、ひどく満足げな我らが船長の顔が目前に迫っていた。
「★」
「…なあに?」
「愛してる」
「わたし、も、」
語尾は重なった唇に掠れた。
恋人
「★、航海計画なんだ、が、………なんだアンタがここにいる…」
「恋人の部屋に居て何か悪ィかよ?」
「…★に話がある」
「悪ィなあ、今寝付いたばっかりなんだ。疲れさしちまったからまた後にしてくれ」
「……」
20120822