「エース隊長が、好き、です、っ」
「あー、えーと、★、嬉しいんだけど、その、なんつーか………ゴメン」
「い、いえ、いいんです!聞いてもらえただけでっ、あの、こちらこそなんかごめんなさい!」
「いやほらお前はなんつーか、仲間っつーか妹っつーか、そういう意味ではスッゲー好きなんだ、でも、」
「いいいいんですいいんです、あの、これからも今まで通り、仲良くしてやってくださいっ」
「あ、ああ、もちろん!」

















2ヶ月くらい、前だったか。茹で蛸みたいに真っ赤な顔に涙を滲ませて無理矢理笑っていた★が脳裏をよぎる。あのときは正直、本当に焦った。あいつはスペード海賊団の頃からの仲間で、歳はひとつしか変わらないけど童顔だし時々抜けてるし、かわいい妹としか思ってなかった。けれど銃器を持たせれば女とは思えないほど有能な狙撃手で、共に死線を幾度となく越えてきた。信頼できる仲間の1人。彼女もそう思っているとばかり思っていたのに、そんな彼女に告白されて。大切な仲間だからこそ適当に扱う訳にはいかなくて、正直な気持ちを伝えたのだった。

それから1週間ほどはさすがに避けられてたのかあまり顔を合わせることもなくて、心配した。けどある日から全く今まで通り、エース隊長、なんて話し掛けてきて。他愛ない話をしたり手合わせしたり、今までと何ら変わらない関係に戻ったのだった。


だけどおかしいのは、俺の方だ。

「★、今日は本当よくやってくれたよい」
「いえいえ、マルコ隊長のお陰です!」
「あの距離で撃ち落とすなんざ他の奴じゃ到底無理だったからな。お前が出てくれて助かったよい」
「そんな、ほめすぎです!」


狙撃手である★は目がいい。オヤジの名で守っている島を襲おうとした酔狂な海賊を一掃する際、★は砲撃でマルコの手助けをした。宴で酒が入ってるのもあるが、マルコはいつにない上機嫌で★の頭をぽんぽん叩きながら笑っていて。あいつもあいつで、はにかむように笑いながらすげぇ嬉しそうだ。
自分の隊の★の手柄を喜ぶ反面、マルコに笑う彼女が何故だかひどく気に入らない。



「なあ、★お前、最近綺麗になったんじゃねぇか?」
「え、何いってるんですかマルコ隊長」
「いや、なんか変わったよなあと思ってよい」
「えへへ、実はちょっとダイエットしたんです」

聞き耳たててるなんてカッコ悪ィことこのうえないが、どうしても気になってしまう。★の身体をなめ回すように見つめるマルコをぶっ飛ばしたい。俺にそんな権利はないのに。



「ダイエット?なんでそんなこと」
「うーん、女らしくなりたくて…ですかね?」
「何いってんだ、充分いい女だよい」
「もうマルコ隊長、酔ってますねー?」
「こんなくらいで酔うわけねェだろ。本音だよい」

マルコが船の女を口説く?
そんなことは今までなかったはずだ。★も頬を僅かに赤く染めて、上目遣いはマルコを誘ってるみたいに見える。ああ、イライラする。手にしたジョッキはとうに空だった。そんなことにも気付かないくらい、俺はどうやらあいつに見いっていたらしい。

でも、たしかにマルコの言うとおり、彼女はこの2ヶ月程で変わったと思う。元々太ってなんていなかったけど、幼児体型じみていた身体も今はやけにすらっとしていて、服もほんのすこし露出が増えた。白い胸元や脚が眩しくてつい目で追ってしまう。


「妬けるねェ、お前にそんなに頑張らせてるのはどんな男なんだよい」
「もう、そんなんじゃないですって」
「へぇ?じゃあ俺が誘ってみてもいいんだな?」
「からかわないでくださいよー」

困ったように笑うその顔も、マルコを捉える大きな瞳も。妹分だったはずの★とは思えないくらいひどく艶やかで、酒のせいか赤い唇から目が離せない。


「からかってなんかねぇよい」
「マルコたいちょ、っ?!」
「…なんだよい、エース」

気が付いたら、★にぐっと近付いたマルコから彼女を奪うように腕を引いていた。


「エース隊長、」
「…ちょっと借りる」

鋭い視線を投げてくるマルコから逃げるように、★の細い腕を引いて船尾の方へ歩き出した。


「エース隊長、あの、わたし何か、」
「……」

ふれあっている手が熱くて、心臓が煩い。人気のない船尾に連れ込んで、俺はなんて言うつもりなのか。





逃した魚
(おかしいのは、俺の方でした。)



20150531











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