「……………痛い」


半分口の中で呟いたひとりごと。


「大丈夫か」


珍しくすかさず拾ってくれたキャプテン。
緩慢かつ最小限の動作でキャプテンの方をみる。
ここは食堂で、彼は自席で新聞を広げていて、わたしはその近くの席でテーブルに突っ伏していた。

毎月必ずやって来る周期的な厄介。
身体が女性としての働きをきちんとこなしている証と言われても、船で紅一点のわたしにはこの煩わしさを共有できる話し相手はいない。


でもお医者さんであるキャプテンには薬を処方してもらっているし、何より彼はみんなに対してよりわたしには少し優しい。ほんの少し。
だからしんどい時は、自室にこもるよりキャプテンの近くの方が安心する。



「お腹が…痛いです」
「痛み止めは」
「ご飯の後に飲みました、けど」
「そうか」


バサリと新聞の音がして、ぎしっと椅子が鳴る音がして、キャプテンが私の隣に腰掛ける。
キャプテン以外はほとんどがベンチタイプで長椅子なので、急にぐっと近くなる。

ふわりと香るキャプテンのにおい。
ああ、これがすき。
痛みで思考が散らかるけれど、消毒とシャンプーと本の匂いが混じったようなキャプテンの匂いだ。



「★」
「ふぁい」
「少し横になれ」
「え、ここで?」


キャプテンが自分の腿辺りをぽんと叩く仕草をした。それはつまり…膝枕してくれるとかいう…


「部屋まで歩けないんだろ。抱いて連れてってやってもいいが」
「う…大丈夫です」


お邪魔します、呟いて頭をキャプテンの太腿にごとんと載せた。
正直、痛みが酷くて頭がぼーっとしていた。
お腹の痛覚だけがクリアで、あとのところはぼんやり煙っているようだった。
だからキャプテンの足にも、そっとではなく割と思い切り倒れこんだのに、キャプテンは全く意に介さずにそれをそのまま受け入れてくれて。


「熱はないな。楽な姿勢で少し眠った方がいい」
「……はい」


おでこの辺りを触って、次にお腹の辺りをさすって。大きくて硬いキャプテンの手のひらは、優しくて思った以上にずっと温かい。



「……キャプテン」
「ん」
「ありがとう、ございます…」
「……ああ」



かたくて温かいキャプテンの太腿を枕に、楽になる痛みを感じながら目を閉じた。





君は妙薬

(あ?おいお前何してんだ早く入れよ)
(いや見ろよ、あれ)
(キャプテンと★?)
(なんだって食堂で膝枕してんだよ)
(あー、★体調悪そうだったもんな)
(いやでも部屋行けばいいだろ)
(馬鹿、キャプテンはワザとあそこでああしてんだろ)
(ええ〜…)





20181006









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