*現パロ/高校生











第一理科室の準備室兼、先生の隠れ家。
大きな黒板の裏に位置する細長い部屋には鍵のかかる棚があって、小さな手洗い場があって、小さな窓もある。
余程のことがなければ生徒は入らないし、ほかの先生はもっと入らない。
いつもほこりっぽくて、よく分からない器具や実験道具や薬品らしき瓶があふれていて、棚の上からは小動物の骨格標本みたいなものが見下ろしている。
そこが、私が学校一好きな場所だ。




「先生、」
「……なんだ、また来たのか」




トラファルガー先生。
授業がないときはいつもそこに居て、大抵煙草を吸ってる。
最初は、日直だからと課題を集めて提出に行って、それからちょくちょく私はここに来るようになった。




「質問があるってわけでも無さそうだな」
「……」
「コーヒー飲むか」
「…はい」


淡く白煙が残る少し薄暗い理科準備室の中、ふ、と口許が緩む先生の目の下には、いつも隈があって、不健康そうなこと極まりない。
持ち込んだのだろう小さな電気ポットからお湯を注ぐマグは先生のと同じ紺色で、インスタントコーヒーの香ばしい香りが広がる。


大きな机は雑多な物だらけで、そこで必要最低限に確保されたスペースで書き物をしていた先生の横に座る。
湯気が上がるコーヒーはブラック。この部屋にはミルクも砂糖もないから、私はいつのまにかブラックでコーヒーが飲めるようになった。




「ねえ先生」
「ん、」
「先生って彼女いるの」
「……いると思うか?」



くく、とさも可笑しそうに笑う綺麗な横顔。
トラファルガー先生は怖いってみんな言うけれど、私はすごく魅力的だと思う。無口なイメージを持たれてるけど、話せばちゃんと応えてくれるし、優しい。
そんな横顔に見惚れる私は、きっと凄く子供っぽく見えるんだろう。



「今日ね」
「ああ」
「告白されたの」
「…へぇ、モテるんだな」
「ずっと好きだった、って」
「…誰に」



カチン、とオイルライターの蓋がなる。
細く白く、煙がのぼる。




「エース」
「ああ…あいつか」
「ずっと友達だと思ってたのに」
「それで?」
「それでって、」
「付き合わねぇの?」
「……私好きな人いるから」
「へェ、そりゃ残念だな」



ふーっと深く吸い込んだ煙を吐き出す先生。
煙たいはずの煙草の匂いが、いつの間にすごく好きになった。




「先生は、好きな人いるの?」
「……そうだな、いる」
「え」
「なんだよ、意外か?」



横目でこちらを見ながら笑う先生から、目が離せない。そっか、好きな人いるんだ。大人、だもんな。



「告白しないの」
「ポートガスみたいにフラれたくないもんでな」
「きっと先生ならフラれないよ」
「ヘェ?」



かたん、椅子がなる。
先生が煙草を押し消して、私の方に身体を向けた。




「それじゃあ、告白してみるか」
「……先生だれが好きなの」
「誰だと思う」
「うーん、この学校の先生?」
「違うな」
「じゃあ分かんない」
「でもこの学校にいる」
「え?先生じゃないのに?」
「ああ」




先生の目に射抜かれそうで、ずっと見て居られない。ああ、顔が熱い。
心臓がうるさくて仕方ない。




「なぁ、」
「…っ」



こちらに身体を向けて居た先生が急にぐっと屈んで顔を覗き込むような姿勢になる。
ああ、なんて綺麗な目。




「お前が好きなんだけど」
「………え」
「だから、俺が好きなのはお前なんだけど」
「な、なに、」
「お前は?誰が好きなんだよ」
「……っ」



まだ白煙の名残が残る狭い部屋。
先生の指が、少し震えてる気がした。



「……先生が好き、って言ったら?」
「上出来だ、★」



にやりと笑った形の先生の唇が、私のそれに重なった。






(わたしのすきなひと)



「いつから、」
「あ?」
「いつから私のこと好きだった?」
「そうだな…初めから?」
「初めから、って」
「気付いてなかったか?」
「え?」
「ここに入るのを許すのも、コーヒーを出してやるのも、こんなに話すのも、お前だけだろ」
「え、」
「初めから、全部お前だけだ、★」
「……っ」




20180721









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