ああこれがほんとに好きって事なんだな、きっと。目が合っただけですごくどきどきしてしまって、あの人のこと考えるだけで夜も寝れないって、私ってそんなキャラだったかなあ。
なんて考えてたら、何もないところで転んでしまった。あ、あれ?私今歩いてたっけ?


「っ大丈夫か…!?」


で、なんでそ之芭さんが私に手を伸ばしてくれてるんだっけ?わたわたして、すごく慌ててる様子で。あれえ?なんで?


「わ、わ、すいません!」


反射的に出してしまった私の手を、之芭さんはひょいと持ち上げて私を起こしてくれた。


「怪我は?」


あ、之芭さん、今日は普通の服着てるんだ。フードもマスクもなくてなんだか新鮮…っていうか、すごく、かっこいい。…やばい、顔、真っ赤になってるかも、っていうかなってる絶対。心配そうな顔してこっち見てる。之芭さんが、こっち見てるのよ?


「だ、大丈夫です!」


…多分。安心したようにちょっと微笑んだ之芭さんがすごく可愛いです。ああ、男の人に可愛いなんて失礼かな。でもそう思った。
そのままふらふらと進行方向に歩いていくうち、私の少し前を行く之芭さんの右手が目に留まった。繋ぎたいなあなんて高望みな考えが浮かんで消える。ないない、無理!


「…どうかした?」
「あ、いや繋ぎたいなあって…」


ポロッと、口から言葉がこぼれてしまった。ん?んんん!?え、うそ、なに馬鹿正直に答えてんのわたしいいいい!!!!!?
冷や汗が気持ち悪い。ゆっくりこっそり之芭さんのほうを見ると、ばっちり目が合ってしまった。


「之芭さん、顔真っ赤で」


す。ってあれ?なんでわたし之芭さんの腕の中にいるの。抱き留められちゃってるの。私より大分背の高い彼を見上げようとすれば肩に顔を乗せられてしまって余計に強く抱き締められる。あと顔も近い。近いよ。


「見ないでくれ…っ」


恥ずかしいらしい。普段みたいに簡単に顔を隠せないからなんだろうけど、ぎゅうってするののほうがよっぽど恥ずかしいのは私だけなのですか。


「之芭、さん」







そう名前を呟いた所で全身を包んでいたぬくもりがすっと消えて、視界に映ったのは見慣れた天井だった。あれ?ああ、そうか、今のは夢だったのね?いやにリアルだったなあ、もう、私ってばあんな夢見るなんてどんだけ之芭さんのこと好きなのよって。…きついなあコレは。そう思った瞬間にぽろりと涙が一粒零れて、意識した瞬間にはもう止まらなくなってしまっていて。

之芭さんに会いたい。会ってどうするの、伝えるの、伝えてしまうの?うん、そうだよ、だってこんなに好きなんだから。もうどうしようもない。

頭の中の自問自答は、私の決意を固めるのに十分。パジャマの袖で涙を拭って重たい身体を起こした。外はもう明るくて、時計を見れば六時。今から準備して、学校に行く前に行ける。
深呼吸をひとつして、立ち上がった。





***
(おはようございます…っ!)
(おはよう…、浦原さんならまだ)
(ち、違うんです!浦原さんはいらな…あ、いや)
(…?)
(之芭さんに用があって)
(なに?)
(あの、…すきです、之芭さんがだいすきです)