寒い。いや、とても蒸し暑い初夏なんだけれど。心が寒い。
目の前に広がる暗い道。そしてこんな夜更け。等間隔にちまちま見える光は、気味が悪い。昼間はなんとも思わない慣れた道だけれど、夜だし、なんか幽霊とか。と少し考えてまた寒くなる。ひとりぼっち。身体も、心も。このまま家に帰っても何もないし、ぶらぶら歩き回るだけ。行く当てもないけれど。
もういっそ、踏切前とかね。樹海とかね。…いや、死んでたまるかってんで。

何故わたしが絶望に暮れているかって。捨てられた、それしかない。わたしは悪くなかった、あの人の見る目が悪いだけ。言い聞かせ言い聞かせとぼとぼ歩く。涙が止まらない。悔しい、なんでわたしが泣かなきゃいけないんだ。

でも、ああ言ったのはわたし
でも、素直じゃないわたし
でも、負けず嫌いなわたし

こんなわたし、きらいだ。

沸々と沸き上がるいやーな気持ちなんかが全部、涙に変わってぼろぼろ零れる。すき、だった。すき、ああ、いまでもすき。でもおわり。
行き止まりに突き当たった。小さな駄菓子屋さん。いつの間にまたここに、か。慣れって怖い。でもやはりこの時間、閉まっているのは当たり前。一筋の光も見えないお店でも、違和感なんて何もない。別の道を行こうと方向転換した先には、見覚えのあるシルエットがあった。


「っ、…之芭!?」


そりゃあ、びっくりする。ただでさえ怪しい格好なのに。それでいきなり現れるしね?


「何かあった?」


泣いてる、って。いつもの調子で聞いてくる。いやだ、泣き顔見られたとかかなり恥ずかしい。それでも涙は止まらないわけで。


「……振った」


苦しい嘘。それでも彼はそう、と納得してくれた。きっと分かっているであろう彼の優しさがああ痛い。無理した笑顔も不自然でたまらないんだろう。


「泣かないで。」


ぽん、と、之芭の手がわたしの頭に置かれた。ふわりと撫でられた感覚に、何故かあたしは安心して。鼻水とかついちゃうなんて気にしないで、之芭にダイブした。しがみついて涙をこらえた。これ以上水分を無駄遣いしてなどやらない。それでも之芭の口下手な慰めにまたちょっと泣いた。





***
新しい恋がすぐ目の前に