空を見上げて、ああ、真っ青だ。確認するように飲み込んで、やっと店内に一歩を踏み出した。


「こんにちはっ!」
「…いらっしゃいませ」


今日の店番も之芭さん。それを確認した私は自然と笑顔になっていることに気付いた。(別ににやけてるわけじゃないよ、うん)
何か新しい商品入りました?、なんて聞いてみる。だって私はこのお店のお客様だから。ずっと前、黒崎君たちが出入りするようになるちょっと前。それでもこんなに頻繁には来なかった。之芭さん達(りりんちゃんや蔵人さん。)が出入りするようになってから。


「昨日、仕入れがあった。」


ぼそぼそとマスク越しに聞こえているはずの之芭さんの声。何故か耳にはっきり届く。(愛故、かしら。)そう、わたしは之芭さんに会いたくて来ている。黒崎君達や、この浦原商店に、深い事情があるのは知ってる。だけどそれが何かは知らない。能天気なわたし、だからこそ之芭さんに惚れるなんてことがあったんだろう。


「じゃあっ、今日はこれでお願いします!いくらですか?」


お菓子を之芭さんの所へ持って行く。今日のわたしは、ひとつ目標を胸に秘めていた。


「…680円、」


ちゃりんと之芭さんの手の平にお金をのせる。タイミングは、今。


「今日はとってもお天気がいいですねっ」


にこっ、と、微笑んで余裕ぶってみるが、内心ドキドキ。こくりと頷く之芭さんに何故だか少しほっとする。そう、今日、私は一歩前進するのだ。


「あのですね、えと、………。」


何黙ってんだ、私。簡単じゃない、一言散歩に誘うだけ!之芭さんの頭にハテナが浮かんでいる、気がする。そして少しの沈黙。気まずい雰囲気、ああもう駄目。


「…っすいませんなんでもないです!」


ドキドキドキ、止まらない。テンパりすぎてどうしようもない。変な子って思われた、絶対!之芭さんにくすりと笑われた。(気がした。)


「良かったら、散歩でも」


余裕を見せた表情に、ああ、これだからこの人、かっこいいんだ。なんて、惚れ直してしまっている私がいたわけで。





***
…え、あ?もちろんです、喜んで!