※切ってないけどリスカ話なので注意






近付けば自動的に開いたドアをくぐれば、見慣れた黄色い姿…ではなく、頭だけ黄色い(金髪とも言う)、白衣の青年の後ろ姿がそこにあった。何故またヒトガタなんだ、と聞くのも面倒だったので何も言わずにそれに寄っていった。


「黄色いのー、カッター貸してー」


私の言葉を聞き終わると同時に、青年…まあクルルだ、そいつは手元のリモコンに手を伸ばす。リモコンにはたくさんのボタンがぎっしり並んでいた。それに目を向けるでもなく、手探りでひとつのボタンを押す。機械音が少し聞こえたかと思えば、目の前にカタンとカッターが落ちてきた。


「危ないよー?」


まったくこれ、どっから出てきたの?とも思ったが、やっぱり常識なんか通じないのは分かってるからやめた。床に落ちてしまったカッターをひろいあげ、それと同時にその場に座りこむ。冷たい床だなあ。


「何に使うんだァ?」


チャキチャキ、と刃を出す音、それを固定する音がラボの中に静かに響いた。そいつはまた、興味があるのかないのか振り向きもしない。


「アレ…えーっとなんだっけ、手首切るやつー」
「いっちょ前に若者らしい事しやがる」


手のひらまでかかるシャツの袖をたくし上げれば、白い肌が姿をあらわした。まだ夏はこれからだし、そりゃ肌も白いよ別に不健康なんかじゃないもん。


「なんか、皆当たり前のように切るから、楽しいのかなって思って」


ふと、クルルのガチャガチャと機械をいじる手が止まった。そして舌打ち。(こわい。)椅子から立ち上がり私を見下ろすから、私は見上げる。いつもとどこか様子が違うクルルに驚いた。


「…怒った?」


手首に添えられたカッターが少し離れた。まだ切れてはいない。


「何で俺が怒らなくちゃならねぇんだ?ククッ」


ニヤッ、とクルルの表情が変化した。悪巧みをするような、そんな邪悪な笑顔。こんな笑みを浮かべる時は、他人にとって必ずしも悪いことが起きるとき。特に私にとって。


「カッターよこせ」
「え?」


差し伸べられたクルルの手。渡すのも怖いが、渡さないときのほうが怖い、と直感したので素直にカッターを手渡した。


「俺が切ってやるよ」


言ったかと思えば、いきなり乱暴に私の手首を掴み、刃を添える。


「ちょっ…、待って」
「今更怖くなった、ってーんじゃねーだろォ?」


そしてやはり、ニタリと歯を見せて笑う。いつもの笑い声を小さくこぼして。


「てめーを傷付けられんのは、俺だけだ」





***
じぶんで切らなきゃいみなくないかな。