隣にあったはずの体温が徐々に冷えていくのが分かった。カーテンの隙間から差し込む朝日に、開かなくても目がチカチカする。思考は起きている。身体が思うように動いてくれない。快適すぎるベッドというのも考え物だ。出たくなくなる。広すぎるベッドというのも考え物だ。ひとりでは寂しすぎる。


「の、…ば…」
「おはよう、なまえ」


小さく呟いたつもりだったのに返事が返ってきた。驚いて重たい瞼を開いた。あ、割と近くに居たのですか。何処にでもありそうな青いパジャマで身を包んだ之芭が私を見下ろしていた。そんな格好はやっぱりちょっと新鮮だ。


「マスクを除いては〜…」
「何の話だ?」
「なんで風邪ひいてる訳でもないのにマスクなんかしてるの」


寝る前はしていなかったのに。(とりあげたのだけど。)之芭は会話を逸らすように私の布団に手をかける。引き剥がされるその前に私も抵抗してがっしりと布団を掴んだ。呆れたような顔はよくされるので、もう慣れました。


「朝ご飯、用意した」
「まじでーありがとー」
「…食べないのか?」
「まだ起きたくないんだもん」
「……………」
「おはようのちゅうしてくれたら起きる」


マスクから少し見えるその顔が、赤く染まったのは見逃さなかったのだけれど。そこから広がるように視界が赤くなって黒くなって、次には背中を床にぶつけた。ごん、という鈍い音と一瞬の鈍い痛み。ひ、ひどい。落とされた。きれいに私の身体だけ移動させやがって。

真横にはついちょっと前まで身体を預けていたベッドがそびえ立っている。反対側にはさっきより顔がずっと遠くなった之芭がいる。ちぇ。


「起きて」


申し訳無さそうな情けない顔をした之芭が私に右手を差し伸べてくる。罪悪感を感じるくらいなら最初からしないでくださいよ。

折角なので手を借りて上半身を起こしたが、そのまま右手を解放することなく瞬時にマスクを剥ぎ取ってやった。没収です。





***
そんな幸せの朝を迎えに行こう