お疲れ様でした、と告げて店の裏口から外へ出た。見上げるとやたら晴れた夜の空に、ちらほらと星が散らばっている。冬の夜はひどく寒く、店内との気温の差に身体がついていかない。寒い。家まで10分程度だ、近場でバイトいていて良かったとしみじみ思う。
吐く息は、白い。首に巻いたマフラーで口元を覆えば、顔面はそれほど風の被害を受けない。コンビニの窓ガラスに映った自分の姿を見て、くすりと笑ってしまった。


「之芭みたい。」


そういえば最近は放課後はすぐにバイト、という日が続いていて全然会えていない。思い出してしまうと気になるもので、一気に寂しさがこみ上げてきた。会いたい、かも。頭の中に憶えている限りのスケジュールを並べたが真っ白な日付が見えない。珍しい、こんなに多忙な事が今までにあっただろうか。
ひとつ、ため息が白く消えた。


「幸せが逃げる」
「いま幸せじゃないもん…」
「何かあったの?」


それはもうとても驚いた。会いたい気持ちが幻覚を生み出したかと思ったが、生憎そんな便利な能力は持ち合わせていない。私は人間だ。だけどこいつは人じゃない。心配そうな目で私を見ている、之芭。


「なんでそこにいるの」
「迎えに来た」
「なんで?」
「…寒いから」


なんとなく繋がらない答えと一緒に手を伸ばす。かじかんだ指先はまっすぐに体温を求めた。


「でも、これであったかい」


だから今日は、ゆっくり歩いて帰りませんか。





***
前言撤回、わたしはこんなにも幸せだ